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概算要求―公約の優先順位を見直せ

 鳩山政権にとって来年度の予算編成は重大な関門だ。自公政権時代の予算のあり方を根本的に変革するための試練が待ち受ける。各省の概算要求がきのう出そろい、新政権の真価がいよいよ問われる。

 鳩山由紀夫首相は「要求大臣でなく査定大臣に」といい、概算要求の総額を今年度当初予算の88.5兆円以下に抑えるよう指示していたが、ふたを開ければ95兆円にものぼった。

 政権公約に掲げた新政策を実現するのに必要な金額を各省が盛り込んだ結果、予想以上に膨らんだ。

 一方で各省とも大臣、副大臣、政務官の政務三役を中心にムダ削減に取り組んできた。麻生政権が決めた1次補正予算を見直す作業では、3兆円近い財源を確保する成果を上げた。

 国土交通省などが要求した来年度の公共事業費は前年度の実績より15%も減った。自公政権ではありえなかった大胆さだ。それでも公約実現に向けて積み上がった要求額をまかなうことができなかった。

 とはいえ、政権交代からまだ1カ月。新政権は、要求額を一律に抑える自民党政権時代のシーリング(概算要求基準)方式を廃止し、官僚依存から脱して新たな編成手法に挑んだ。まずは順調な滑り出しといえる。

 問題は、要求額を年末の政府案決定までにどう絞り込むかだ。未曽有の経済危機で法人税が大幅に減り、歳入の前提は大きく崩れた。46兆円が見込まれた今年度税収は40兆円を割り込みそうだ。来年度も深刻な歳入不足を覚悟しなければならない。

 この状況を踏まえ、鳩山首相は「赤字国債は本来なら発行すべきでないが、税収の落ち込み具合を勘案する必要がある」と、国債増発の封印を解く可能性を示唆した。

 経済危機で傷んでいる日本経済を政府が安全網整備などで下支えしていくことは欠かせない。それを考えれば、いま引き締めの方向に転じるわけにはいくまい。国債増発も一時的にはやむをえないだろう。

 だが、国債をいくらでも増発していいわけではない。だからこそ鳩山政権は大局的判断に立って、政権公約の優先順位を洗い直すべきだ。

 たとえば高速道路の無料化とガソリン税などの暫定税率の廃止は温室効果ガスを25%削減するという新政権の目標と矛盾する。暫定税率廃止では税収が1.7兆円も減る。これらはいったん白紙に戻したらどうか。

 そのためには、多くの政権公約の実現に向けた4年間の工程表も改訂する必要がある。同時に、将来の環境税導入や消費増税など中長期をにらんだ税財政改革の方針も示してほしい。

 政治主導の本領発揮を、そうしたところでも見たい。

JR西日本―この企業体質にもメスを

 次から次へ、よくもこれだけあきれる事実が出てくるものだ。

 JR西日本が、05年の宝塚線(福知山線)脱線事故の原因究明にあたる国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現在の運輸安全委員会)に対してとった態度はまさに言語道断である。

 山崎正夫前社長が事故調の委員から報告書案の一部のコピーを手に入れ、新型の自動列車停止装置(ATS)をめぐる記述について削除や修正を求めた。そんな事実が明らかになったのは9月下旬だった。

 その後わかってきたのは、JR西日本が事故調の調査をゆがめるような行為をさまざまな形で繰り返していたということだ。

 社内で開いた会議の資料のうち、96年12月に起こったJR函館線の脱線事故にかかわるものが兵庫県警や事故調に提出されていなかった。JR西日本は、資料が抜けていた事実は認めたうえで「意図的に抜いたわけではない」と釈明する。だが、函館線の事故は、宝塚線事故に似て急カーブなのに新型ATSが整備されていなかったケースであり、刑事責任追及の鍵になるものだった。

 さらに事故調が開く意見聴取会で、専門の立場から意見を述べる「公述人」に応募するよう旧国鉄OBら4人に頼んでいた。公述人に選ばれた専門家の1人には不都合な資料を取り下げるよう求め、選ばれなかった2人には応募資料づくりの費用としてそれぞれ現金10万円を支払っていた。

 責任を軽くしようと不明朗極まりない工作を重ねていたと見るしかない。

 結局、山崎前社長は現場付近に新型ATSを優先して設置しなかったことについて業務上過失致死傷の罪で起訴された。公判では、刑事責任だけでなく、身内を守る姿勢ばかりが目立つ企業体質にもメスを入れてほしい。

 鉄道や航空機の事故が起きると、捜査当局の捜査と運輸安全委の調査が並行して進む。これらは、事故の再発を防ぐ大きな二本柱である。とくに安全委は原因を的確に突き止め、再発を防ぐことを最大の使命としている。

 JR西日本の一連の行為は、この二本柱のうちの一本の信頼を失墜させることになった。事故原因が究明されなくては、利用者は事故の再発リスクから逃れられないまま列車に乗り続けることになる。それは、乗客の生命を預かる企業としての資格そのものが問われているということだ。

 100人を超える乗客の生命を奪った宝塚線の事故については、どんなことがあっても、公正な報告書を後の世に残さなくてはならない。

 国交省は、報告書の信頼性について検証するという。場合によっては、一から報告書をつくり直すことも考えなくてはなるまい。

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