広島、長崎両市の五輪共同招致構想は興味深い試みだ。難問は多いが、その理念は明快で、中都市による五輪開催という新機軸もある。さまざまな可能性を見据えた検討が行われるべきだ。
広島、長崎両市が、二〇二〇年夏季五輪を共同で招致する意向を表明した。両市長らで構成する委員会を設け、検討に入る。両市が主導する平和市長会議が、二〇年までに核兵器廃絶を目指すと目標を掲げていることもあり、平和の祭典である五輪はそのシンボルにふさわしいとして招致へ一歩を踏み出した。核廃絶への動きを加速するためにも、被爆地である両市が五輪を開くことには大きな意味があるとの考えだ。来春をめどに結論を出すという。
一六年五輪の招致に東京が失敗したばかりであり、やや唐突な感じもある招致構想。が、被爆都市が核廃絶を訴えれば、それは強い説得力を持つ。もともと五輪運動の目的には平和の推進が含まれており、両市のメッセージは大会招致の面でも強いインパクトを持つだろう。「核なき世界」を提唱したオバマ米大統領のノーベル平和賞受賞もあり、今回の動きが国際オリンピック委員会(IOC)や世界のスポーツ界の注目を集めるのは間違いない。
一方、開催実現に向けては高い壁が立ちはだかる。まず第一に、五輪は一都市開催が原則となっている点がある。複数都市開催は前例がなく、認められる可能性は低い。また、五輪はいまや多額の資金を要する巨大イベントとなっており、中規模都市が開くのは財政面などから困難な状況となっている。さらに、政治的なメッセージだけが先行する形では、幅広い賛同は得にくいだろう。
とはいえ、広島、長崎のような地方の中都市が、虚飾を排した質素、素朴な大会を開けば、それはまた近年の五輪の流れに意味ある一石を投じることになる。開催地が国際的な大都市に偏りがちな傾向は、けっして本来の五輪精神に沿っているとはいえない。豪華・巨大ショーイベントとは一線を画した、新たな五輪開催の方向を打ち出せば、開催の夢を持つ多くの国から評価されるはずだ。
まだ何も見えない検討段階。ただ、もし多くの難問に答えを出し、新たな五輪像を示す計画を練り上げることができれば、明快なメッセージと相まって、夢実現の可能性は広がる。核廃絶のシンボルというだけにとどまらない、幅広く真摯(しんし)な検討を望みたい。
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