HTTP/1.1 200 OK Date: Tue, 13 Oct 2009 21:17:10 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 初めまして EU大統領:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 初めまして EU大統領

2009年10月12日

 欧州連合(EU)に初の大統領が誕生しそうです。「顔」が見えない、といわれ続けて半世紀。国際政治に新スターは生まれるのでしょうか。

 最後の最後まで関係者はひやひやし通しだったことでしょう。

 EUの将来を左右するリスボン条約。昨年、アイルランドの否決で宙に浮いていたものが再度の国民投票で批准され、来年早々の発効になんとか目処(めど)が立ちました。金融危機の衝撃が世論を変えるきっかけになったようです。

 チェコの批准手続き上の「抵抗」が残っており、なお曲折もあり得ますが、大方の関心は早くも新条約で誕生する初のEU大統領に移っています。

◆大国の欧州 小国の欧州

 法の専門家でも解読不能、と揶揄(やゆ)されるほど複雑な法体系を持つ新条約です。欧州が実際どう変わるのか、はっきりしないところも多いのですが、下馬評で有力視される二人の候補者を対比させてみると、EUの進み得る方向性が浮かんできます。英国のブレア前首相と、ルクセンブルクのユンケル首相です。

 「ブレア大統領」は、英語文明に連なる欧州、というイメージを背負うことになるでしょう。思い出したくもないことでしょうが、欧州の結束を試すように引き起こされたイラク戦争を通して、ブレア英政権は「米国のプードル」とまでいわれながらブッシュ政権と寄り添いました。

 少し歴史を遡(さかのぼ)ると、「英語を話す諸国民の同盟」という言葉を思い起こさせます。第二次大戦に際し、チャーチル英首相がルーズベルト米大統領に参戦を促す際にも用いた表現です。「英語を話す諸国民こそ自由のトーチを灯(とも)し続けることができる」。こう記したチャーチルの言葉には、アングロ・サクソンの伝統主義を担う自負が滲(にじ)みます。

◆英語で話した独仏首脳

 一方、「ユンケル大統領」には、フランス語、ドイツ語の欧州大陸文化の系譜を担うイメージが伴います。大国の狭間(はざま)に位置する悲哀を身をもって知るユンケル首相は、ドイツ統一に関する小紙とのインタビューで「ドイツはもはや戦後状況の捕囚ではありません」「ドイツとフランスは歴史的な教訓を学び、もう争いは繰り返さない点で一致しています」と語ったことがあります。EUの核心にある不戦の誓いを体現する一人です。

 小国の指導者をトップに戴(いただ)くEUは、控えめながらよりきめ細かな調整機能を発揮するでしょう。これは、バルケネンデ・オランダ首相、リッポネン元フィンランド首相ら、名前があがっている他の候補者にも当てはまります。

 リスボン条約の批准がここまで難航した大きな原因の一つは、大国にのみ込まれかねない小国の不満にありました。新条約には、その不安を和らげる措置が採り入れられています。

 EUの立法措置が取られる場合、欧州議会とともに各国議会へも法案を提示する制度や、加盟国有権者の意思が直接反映される請願制度も導入されました。各国が大きな懸念を抱く場合、審議に一定期間待ったをかける仕組みも強化されました。

 しかし、そもそも新条約の狙いは、二十七カ国に膨張したEUを効率化することでした。「大統領」の新設は意思決定のスピードが鍵を握る国際社会で太刀打ちできる体質づくりへの期待がこめられています。英独仏三大国の影響力に頼る面も現実には否定できません。

 「世界語」の英語が映し出す欧州と、「欧州語」の仏独語に現れる欧州とは自(おの)ずと色合いが違います。三大国いずれをもってしても単独ではグローバルパワーたり得ないのが現在の欧州の実情です。

 欧州統合に積極的に取り組んだジスカールデスタン元仏大統領とシュミット元西独首相が、その三十年以上にわたる交友の間ずっと英語で話し合っていた事実は、新たな統合体を求めて模索を続ける新欧州を考える際、示唆に富むものです。

◆欧州市民のシンボル

 誕生する「大統領」の実際の役割は現在のEUサミットの議長を務める欧州理事会議長です。従来の半年ごとの輪番制を廃止して任期を二年半(再任可能)にするもので、実態は「常任議長」です。国際舞台でどこまで欧州全体を代表できるのか。同時に誕生するEU外相(外交・安保上級代表)との権限の重複はないのか。すべてはこれからです。

 未(いま)だ成熟しているとは言えない欧州市民のシンボルとして登場する欧州の「顔」。大国から選出されるか、小国からか。静かな変革ながら、欧州の新たな方向性を刻む大きな一歩となることには間違いありません。

 

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