「ホラホラ、これが僕の骨――/見てゐるのは僕? 可笑(をか)しなことだ」。中原中也の「骨」という詩にこんな一節がある。いやいや、これもこれもみな僕の骨ではないかしら。ずらり並ぶヒトの骨を眺めていて、奇妙な感覚に襲われた。
▼東京大学総合研究博物館にいま、さまざまな時代の人骨が展示されている。模型だけれど、最も古いのがエチオピアで見つかった約440万年前の「ラミダス猿人」だ。身長120センチの割に頭骨は小さく、赤ん坊の頭くらい。それでも、説明書きに「女性」でなく「メス」とあるのがかわいそうなほどヒトに近い。
▼だから、これだって僕の骨――。そうも思えるのだが、一方で、ヒトはいかに変わってきたか、という気にもなる。もうラミダスのように木登りは得意でない。しかし、ボルト選手は100メートルを9秒58で走れる。オバマ米大統領が核兵器廃絶を訴えてノーベル平和賞を受賞するのも、人類が変わり得る証しだろう。
▼広島、長崎が共同で2020年夏季五輪の招致を目指すことになった。五輪と聞けば商業主義が思い浮かぶが、これでは「平和」を訴える被爆都市とは相性が悪い。五輪を新しい形に変えることができるなら。「チェンジ」の年である。難題が多く市民の応援も欠かせないが、まずは両市の取り組みを見守りたい。