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広島・長崎五輪―共感呼ぶ夢の実現には

 大変な難題であることは承知の決断だろう。

 2020年の夏季五輪をいっしょに開こうと、広島市と長崎市がそろって名乗りを上げた。

 人類史上でただ二つ、原子爆弾を投下された都市が手を携えて共同開催の道を求め、検討委員会をつくって招致の可能性をさぐる。

 両市を中心に国内外3千以上の都市が加盟する国際NGO「平和市長会議」は、20年までの核兵器廃絶をめざす。来年の核不拡散条約(NPT)の再検討会議で、その目標までの道筋を定めた「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を採択しようと呼びかけている。

 「核兵器のない世界」を追求するオバマ米大統領に、ノーベル平和賞が贈られることが決まったばかりだ。世界の人々が注視する大イベントである五輪を被爆地で、と提唱することで、国際世論を核兵器廃絶に向けて大きく動かしたい。そんな思いが読みとれる招致表明である。「平和の祭典として出発した五輪は、核兵器廃絶の実現にふさわしいイベント」という訴えは多くの人々の共感を得るだろう。

 とはいえ、立ちはだかる壁はあまりにも厚く、そして高い。

 まず財政面だ。一般会計の大きさを16年五輪の招致をめざした東京都と比べると、広島市は10分の1以下、長崎市はさらにその半分以下だ。広島市は1994年のアジア大会を開いたが、参加したのは42カ国・地域だった。近年の五輪は200を超す国や地域が参加する。基盤整備や招致、運営にかかる多額の資金をどう調達するのか。

 「志を共有する複数都市」にも仲間に加わるよう呼びかけ、ネット献金も募るというが、容易ではなかろう。

 五輪憲章は「1都市開催」を原則にしている。例のない共同開催は、日本オリンピック委員会(JOC)や国際オリンピック委員会(IOC)が受け入れ難いのではないか。

 ほかにも、ホテルの客室数の確保や二つの都市間の移動、五輪後の競技施設の活用、さらには招致に失敗した東京都とのかね合い……。解決しなければならない課題は多い。

 今回の提案を実らせるには、五輪の姿を一変させる必要がある。

 大型公共工事で都市基盤や豪華な競技施設をつくり、招致にも多額の費用をかける。そんな国威発揚や経済振興と結びついた五輪では、限られた大都市でしか開けない。そうではなく既存施設を活用することで、あまり金をかけない五輪を生み出せないものか。

 広島、長崎両市は、JOCやIOC、さらには政府や国民に、自らが描く「これまでと違う五輪」の姿を提案してみたらどうだろう。

 そうでないと、二つの被爆地の市民の納得も得られまい。

対アフガン戦略―抜本的な見直しの時だ

 岡田克也外相がアフガニスタンを訪問し、反政府勢力タリバーンの元兵士に職業訓練を行うなど、新たな支援策をカルザイ大統領に伝えた。

 9.11テロ後のアフガン戦争でタリバーン政権が崩壊して間もなく8年になる。この8月の大統領選は、カルザイ政権の不正の報告が相次ぎ、いまだに結果が確定しない。勢力を回復したタリバーンの激しい攻勢のもとでテロも続発し、情勢は極めて不安定だ。

 この状況下で岡田外相が現地を訪れ、日本の支援継続の姿勢を示したことをまず評価したい。

 米オバマ政権が3月にまとめた「包括的新戦略」で強調したように、民生支援なしに軍事だけで現状を打開できないことは明白だ。日本は、農業のインフラ整備や警察官の給料の肩代わりなどで大きな貢献をしてきた。

 治安情勢など厳しい条件の中で日本ができることを考え、支援継続、拡大の姿勢を示すことは不安定化を阻止するために重要だ。元兵士への支援は、タリバーンの戦力拡大を防ぐためにも必要である。教育や農業支援などにもさらに知恵を絞ってほしい。

 オバマ政権は戦略の再検討に入り、難しい判断を迫られている。駐留米軍の司令官は4万人の増派を要求している。だが、米国内には戦争の泥沼化に通じかねないとの異論も強い。

 実際、米国でも国際治安支援部隊に参加している欧州諸国でも、兵士の犠牲が急増していることで厭戦(えんせん)の空気が広がってきている。

 オバマ氏が「必要な戦争」としてきた論拠も揺らいでいる。アフガンを根拠としていた国際テロ組織アルカイダは、ビンラディン容疑者の所在はなお不明だが、拠点をパキスタンや北アフリカに移している。

 米の「新戦略」がすでに指摘しているように、パキスタンへの支援も一体に考えねばならない。パキスタンでは地元のタリバーン勢力によるとみられるテロが続発している。陸軍総司令部も武装集団に襲撃され、同国の核管理態勢への不安も一気に高めた。

 アフガンに兵員を増派しても、民間人の犠牲が増えては、治安改善の効果は乏しいだろう。アフガンを「オバマのベトナム」にすることなく、効果的にテロを抑止できるよう、抜本的な戦略の見直しに努めてほしい。

 日本が安上がりで効率的な貢献として続けてきたインド洋での給油は、来年1月に期限が切れる。米国が対アフガン戦略全体の見直しを迫られているいま、鳩山由紀夫首相は民生を主体とする貢献策について、オバマ氏に十分説明し理解を求めるべきだ。

 その上で、より大きな文脈の中でアフガン安定化と対テロへの日本の貢献策をさらに積極的に探ってゆく。それが同盟国の果たすべき責務だろう。

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