HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17458 Content-Type: text/html ETag: "87676-4432-2c2fb00" Cache-Control: max-age=5 Expires: Mon, 12 Oct 2009 21:21:11 GMT Date: Mon, 12 Oct 2009 21:21:06 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2009年10月12日(月)付

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 読者からいただく封書に、筆でしたためたものがある。広げつつ墨跡を追えば、ご用件にかかわらず背筋が伸びる。いわば正装の来客。寝ころんで接するわけにはいかない。和紙には、触れる者の居ずまいを正す力が宿るらしい▼東京・王子の紙の博物館で、企画展「手漉(す)き和紙の今」を見た(11月29日まで)。人間国宝3氏の作も端正ながら、いろんな原料と技法で伝わる郷土紙がいい。和紙とひとくくりにするのがためらわれる彩りだ▼展示の紙々は、近く発刊される「和紙總鑑(そうかん)」12巻の一部という。京都などの有志が、10年がかりで各地の1070点を集め、和英の解説を付した見本帳である。来春にも800部が市販される▼一説によると来年は、紙すきの技が大陸から伝わって1400年にあたる。以来、和紙は書画の世界ばかりか、住まいにもなじんだ。戸外の光や音、寒暑を、通すでもなく遮るでもない。障子が持つあいまいさ、しなやかさこそ、自然との「和の間合い」だろう▼古川柳に〈薄墨の竹を障子に月がかき〉がある。おそらくは美濃紙(みのがみ)の、薄いカンバスに揺れる竹林の淡影。素材として、また媒体として日本文化を担ってきた和紙の見せどころである。洋紙の世にあって、なお千種を超す紙が全国に息づくのもうなずける▼博物館で、はがきの手作りを体験した。もみじを3枚すき込み、透かしを入れ、郵便番号の赤枠をスタンプで押したら、素人の戯れとは思えぬ一葉に仕上がった。この見ばえも和紙のマジックであろう。いつか礼状に使わせてもらう。

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