クヌギやナラの葉を食べる天蚕(てんさん)は、屋内で飼うカイコと違って、まゆからとる糸が薄緑色で光沢を放つ。「繊維のダイヤモンド」とも呼ばれている。食べ物のせいなのか糸の中に微小な気泡が交じり、それが光に乱反射するのだそうだ。
▼天蚕は病気になりやすいため、飼育が難しい。それだけに天蚕糸は貴重品だ。独特のつやのある色合いが、染色技術ではなかなか出せないこともあって、ふつうの生糸より値段がかなり高い。1キロあたり70万円ほどになるという。農家が大量に生産できるわけではないが、付加価値は繊維のなかで群を抜いて高い。
▼全国でも天蚕の代表的産地である長野県安曇野市は、この特産の糸を利用した地域振興に取り組んでいる。市内の農家を京都の織物メーカーや呉服商と結びつけ、天蚕糸を使った着物、日傘やランプのかさをつくる。11月にも展示会を開くという。販路を広げ、地域にお金を呼び込もうというのが市のもくろみだ。
▼東京穀物商品取引所の生糸取引は9月末、115年の歴史に幕を下ろした。生糸はちょうど100年前に輸出高が世界一になり、日本の工業化をけん引したが、現在では国内の取引の9割を安い中国産が占める。どっこい、それでもきらりと光る特色がありさえすればニッチ(すき間)の市場でよみがえってくる。