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10月10日付 編集手帳

 描きたい風景は頭のなかにあり、絵筆も握ってはいるが、キャンバスはまだ真っ白のままである。そのキャンバスが名画として激賞され、権威ある美術賞に選ばれたとしたら、画家は喜ぶよりも先に悩み、苦しむだろう◆脳裏の構図を絵の具と筆でいかにして形にし、賞の重みに堪える絵に仕上げていくか…。今年のノーベル平和賞に選ばれた米国のオバマ大統領はいま、作品があまりに早く絶賛されてしまった画家の心境かも知れない◆大統領の打ち出した〈核兵器なき世界〉はまだ構想の手前、願望に近い手つかずの絵である。「称賛とは借金のようなもの」と、褒められることの重圧を語ったのは英国の詩人サミュエル・ジョンソンだが、その重圧を梃子(てこ)にして「絵」の完成を迫るのがノーベル賞委員会の意思であったろう◆「核廃絶」の理想と「核の抑止力」という現実をどういう線で結ぶのか――賞をいわば“前借り”してしまった大統領の筆遣いを世界の目が見つめている◆唯一の被爆国である日本には、白いキャンバスの前で大統領と一緒に悩む使命があるだろう。悩むだけの価値がある「絵」である。

2009年10月10日01時18分  読売新聞)
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