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一読したとたんに胸に突き刺さり、ノートに書き取っておいた一首がある。〈おそらくは今も宇宙を走りゆく二つの光 水ヲ下サイ〉。岩井謙一さんという戦後生まれの歌人が詠んだ。二つの光とは広島と長崎に投下された原子爆弾のことだという▼「水ヲ下サイ」はあの日、地の底からわくようにして空へのぼっていった、瀕死(ひんし)の声、声、声だろう。光も声も、消えてはいない。いまも暗黒の空間を飛び続けている。歌人の想像力は、原爆の「原罪性」を、読む者に突きつけてくる▼罪深い兵器を廃絶して、「核なき世界」をめざそうと唱えるアメリカのオバマ大統領が、今年のノーベル平和賞に決まった。現職の国家首脳の受賞は、9年前に韓国大統領だった故金大中氏が、南北和解への貢献を理由に受賞して以来になる▼オバマ氏は、何かをなしての受賞ではない。だが歴史的とされるプラハ演説を源に、核軍縮の川は流れ出した。国連安保理も巻き込んで川幅は広がっている。それを涸(か)らしてはならないという、ノーベル賞委員会の意思表明でもあろう▼長崎で被爆した作家の林京子さんが、この夏、小紙に語っていた。「人間らしい形を残さない姿で死ぬ人たちを見ました。人間がこんなにおとしめられていいのか、という思いが私の原点です」。同じ思いを、オバマ氏の原点にもしてほしいと願う▼〈燃え残り原爆ドームと呼ばれるもの残らなかった数多(あまた)を見せる〉谷村はるか。聡明(そうめい)な大統領のこと、被爆地訪問がかなうなら、必ずさまざまな真実を「見る」はずである。