鳩山由紀夫首相が沖縄県にある米軍普天間飛行場の県内移設容認を示唆する発言をした。民主党は県外・国外移設が方針だったはず。十分な検討を経たのか。軽々しい方針変更は納得できない。
沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場は市街地に囲まれて危険なことから、日米両政府が自民党政権下の二〇〇六年、米軍キャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市)への移設に合意している。
これに対し、民主党は〇八年の「沖縄ビジョン」で、県外・国外移設を目指す方針を掲げた。
同党の衆院選マニフェストは普天間に直接言及していないものの「米軍再編や在日米軍基地の在り方についても見直しの方向で臨む」と明記。首相は衆院選期間中に「できれば国外と思っているが、県外が望ましいと主張している」と述べている。県外・国外移設の検討は党の公約と言っていい。
しかし、首相は七日、普天間移設について「時間というファクター(要素)によって変化する可能性は否定しない」と語った。
「マニフェストは基本的に守ることが大事」と前置きしてはいるが、これでは県外・国外移設の党方針を断念し、県内移設を容認すると言ったに等しい。
岡田克也外相は、どういう経緯で県内移設の日米合意に至ったかを検証中だと語っている。
普天間飛行場が危険で、移設が喫緊の課題であることは理解する。検証作業が終わり、沖縄県民、米政府と協議を重ねた末に、県内移設容認をやむを得ず決断したというなら分からないでもない。
しかし、県外・国外移設を十分に検討することなく、検証作業も終わらない中での首相の容認示唆発言は、唐突で国民を惑わす。
もし県外・国外移設の難しさを分かっていながら、その検討を繰り返し明言し、マニフェストに再編見直しを掲げたとしたら、国民を欺いていたことになる。
首相に対しては、マニフェストや党方針の変更を求める圧力が強まっているが、国民との約束を簡単に反故(ほご)にするようでは、政治全体への信頼は損なわれる。
首相は八日になって「(県内移設)容認とはひと言も言っていない。日米合意をそのまま認める意味で言ったわけではない」と釈明したが、容認示唆発言は軽率のそしりを免れない。
鳩山首相が肝に銘ずべき言葉は「君子豹変(ひょうへん)す」ではなく「綸言(りんげん)汗のごとし」なのである。
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