「蓑虫(みのむし)、いとあはれなり。鬼のうみたりければ、親に似てこれも恐ろしき心あらむとて…」。平安時代の『枕草子』にもミノムシは「鬼の子」としてその名が出てくる。秋風の吹くころになると「父よ、父よ」と、父親を慕って鳴くという▼秋にミノをつくるため、俳句では秋の季語となる。<蓑虫の音を聞きに来よ草の庵(いお)>芭蕉。実際に鳴くわけではなく、秋深くまで木の上でチッチッと鳴くカネタタキと間違われてきた。古来、身近な存在だったミノムシがいま、姿を消しつつある▼理由ははっきりしている。ミノをつくるオオミノガの幼虫に寄生する天敵の寄生バエが一九九〇年代に日本に侵入、強い繁殖力で全国に広がったためだ。一部の県では絶滅危惧(きぐ)種に指定された▼作物や果物の葉などを食い荒らすミノムシは、中国でも害虫とされている。日本に入ってきたのは、駆除のために放たれたハエだろう。これに寄生するハチも確認されているというから自然界は複雑だ▼現在、見られるのは、寄生バエの影響を逃れた小型のチャミノガの幼虫がほとんどのようだ。大きいミノムシは知らないという子どもが増えるのだろうか▼生態系のバランスを狂わせば、一つの生き物が淘汰(とうた)されてしまうのは自然の厳しい摂理かもしれないが、冬の風物詩ともいえる風に揺れるユーモラスな姿が見られないのは少しさみしい。