ギリシャにミコノスという人気の観光地がある。エーゲ海に臨む港町で、漁船や沖合の島々も美しいが、肝は肩寄せるように建つ古い家だ。白壁と青い窓枠が陽光に映え、クルマの入らぬ路地は歩いて楽しい。バスには町外れから乗る。
▼白と黒。壁や屋根の色こそ正反対だが、架橋・埋め立て問題に揺れる広島県の鞆(とも)の浦の風景はミコノスを思わせる。江戸から戦前まで、数百軒の古い建物。路地。坂道。寺。大きな違いは道路というものとのかかわり方だ。戦後になり、古くからの中心街を取り壊し、一帯を結ぶ幹線の一部とする計画が決まった。
▼整備済みの広い道が街の両端に迫り、街なかをクルマが通り抜ける。中心部の拡幅が難しくなると港の大半を埋め立てる代替策が浮上。裁判で争われたのは規模を縮小した案だ。それにも判決は景観を損なうと中止を命じた。価値観の変化を読み、抜本的な計画変更をもっと早く検討してもよかったかもしれない。
▼鞆の浦では近年、市民自身の手で古い建物を生かした街の再生が進む。希望者に仲介したり、昔の姿を再現したり。海の見えるカフェや高齢者住宅などが誕生した。ミコノスでは各戸が塗装具を備え年2回、皆で外壁を塗り直して魅力を保つ。知恵とやる気があれば、景観と生活は、決して対立するものではない。