政府が新型インフルエンザ用ワクチン接種の優先順位などを決めた。対策は大きく前進するが、ワクチンだけでは被害拡大は防げない。学校の協力、医療機関の連携など総合的取り組みが求められる。
接種は、新型の治療に直接携わる医師、看護師など医療従事者を皮切りに、妊婦、慢性の腎臓疾患や呼吸器疾患の患者、幼児など新型に感染すれば重症化しやすい順で十九日の週から行われる。
目的を、死亡者や重症者の発生をできるだけ減らすことにあると明確に定め、これに沿って優先順位を定めた。
事前の意見募集で要望が強かった受験生への優先接種がはずされたのは、接種の目的にそぐわないとの判断からだ。発症した受験生に対する再受験などの配慮は、教育関係者に委ねた。臨床試験が終了して安全性が確認された国産ワクチンの生産が当面、必要量に追いつかない以上、優先順位を決めるのはやむを得ないだろう。
ワクチンは新型への有効な対策だが、それだけでは不十分だ。
重症者が一定の割合で発生することが避けられない以上、最も求められるのは蔓延(まんえん)期の医療体制の構築だ。そのために医療機関同士が協力し合うなど連携体制をいまのうちにつくるべきだ。
今春の国内発生初期には感染者を医療機関の「発熱外来」に集中させることで被害拡大を遅らすことができた。その後「発熱外来」だけでは対応できなくなり、原則としてすべての医療機関で診療することになった。大流行になればさらに感染者が集中する。
医療機関は感染の疑いのある患者と他の疾患患者との受診待ちの区域を分けることなどが求められる。本当に受診が必要な患者だけが医療機関を訪れるように、電話診療による抗ウイルス薬の処方を臨機応変に行ってもらいたい。
抗ウイルス剤が効かない耐性ウイルスの発生が広がっていることから抗ウイルス剤の投与は治療に限定し、特別な理由がない限り予防投与は避けなければならない。
これまでの経験で、感染者発生の早期に学校・保育施設などを臨時閉鎖すれば、地域への感染拡大を遅くできることが分かっている。各自治体はためらわず実行する必要がある。
今回の国産ワクチンの不足にみられるように、わが国はワクチンによる感染症の予防体制が他の先進国に比べ脆弱(ぜいじゃく)だ。輸入せずに済むように、予防接種行政を抜本的に見直す機会にしたい。
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