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天声人語

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2009年10月5日(月)付

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 詩人の谷川俊太郎さんは、若いころに「博物館」という詩をつくった。〈石斧など/ガラスのむこうにひっそりして〉と書き出して、人類の上に流れた長大な時間に思いをはせる。〈星座は何度も廻(まわ)り/たくさんのわれわれは消滅し/たくさんのわれわれは発生し……〉と言葉は続く▼その石斧の時代より遥(はる)かに遠い、約440万年前の人類の頭骨の復元模型を、東大の総合研究博物館で見た。「最古の人類」と先ごろ報じられたラミダス猿人のものが、月末まで一般に公開されている▼猿人は背丈120センチほどの女性と見られ、「アルディ」の愛称がつけられた。エチオピアの森で暮らし、二足で歩いて、果実や昆虫などを雑食していたらしい。「されこうべ」は両手に載るほど小さくて華奢(きゃしゃ)だ▼だが隣に置かれたチンパンジーのものと比べると、人間に近いことが、素人目にもよく分かる。骨の主が、人類という大河の源流の一滴だったと思えば、どこか慕わしい。茫々(ぼうぼう)、累々たる過去。その凝縮として存在する我が身に気づき、ふと頬(ほお)をつねってみる▼人間とは何か、という問いに「サルとロボットの間」と言ったのはたしか評論家の立花隆さんだった。なるほど、サルを「われわれ」とは言わないが、アルディなら言えそうだ。報道の多くも彼女を「メス」ではなく「女性」と表記していた▼だが彼女の時代も、1億年を1メートルとして地球史を46メートルの巻物にすると、たった数センチの過去にすぎない。黙して語らぬ、されど様々な想像を紡がせてくれる、華奢で小さな頭の骨である。

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