コペンハーゲンで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の総会で、2016年夏季五輪の開催地にブラジルのリオデジャネイロが選ばれた。鳩山由紀夫首相が総会で登壇した東京も招致実現に努めたが、2回目の投票で落選した。
昨年6月の1次審査ではその時点で立候補していた7都市で東京は最高の評価だった。しかし、南米初の開催を訴え、財政面や治安の不安をぬぐったリオに軍配が上がった。
1988年大会でソウルに敗れた名古屋、08年大会で北京に負けた大阪に続き、日本の夏季五輪招致はこれで3連敗となる。五輪は都市が主役とはいえ、国家間の競い合いの様相がますます強まるなかで、五輪への世論の支持が低い点が東京の足かせになったのだろう。
東京五輪は夢に終わり、多額の招致経費は露と消えた。だが、名乗りを上げた意義は小さくない。
東京の計画の特徴は再生可能エネルギーを最大限活用し、地球環境に配慮した点だ。国に先駆けて温暖化ガスの排出量取引を来年4月から始める東京ならではの計画だった。
都が五輪開催に向けて06年に策定した「10年後の東京」という都市構想でも、「水と緑の回廊の復活」を第1の課題に掲げた。都市の景観と快適さを重視し、環境先進都市への再生を目標にしている。
街路樹や都市公園によるサッカー場1500面相当の緑の創出、東京湾上の「海の森」整備、無電柱化の推進などが柱である。こうした事業は五輪抜きでも進めるべきだ。
戦後復興の姿を世界に示した半世紀前の五輪は、道路建設を急ぎ東京から貴重な水辺空間や緑を奪った。その反省が今回、生かされている。
五輪を観光立国への転換点にできない点は残念だが、少子高齢化が急速に進む日本が豊かさを維持するためにも観光振興は欠かせない。首都・東京が歴史や伝統と調和した魅力ある空間に変わることが、その条件のひとつだろう。国際競争力の強化に向けて羽田空港の拡張や東京外郭環状道路の整備も急務である。
五輪だけが夢ではない。未来に向けて東京が乗り越えなければならない課題は山積している。立ち止まっているときではない。