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五輪リオへ―「南米初」に喝采を送ろう

 52年ぶりの東京五輪の夢は消えた。だが落胆している人の耳にも、地球の裏側からサンバのリズムに乗る歓喜の歌声が届いていることだろう。

 カーニバルで知られるブラジルのリオデジャネイロに7年後の夏、聖火がともされることになった。

 コペンハーゲンで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、リオが東京、シカゴ、マドリードを振り切り、16年夏季五輪の開催都市に選ばれた。南米初の開催である。

 招致をめぐる大混戦の中で、ルラ大統領やサッカーの王様ペレ氏らが「南米の若者のために、五輪を新たな大陸にもたらしてほしい」と訴え続けた。それがIOC委員の心を幅広くとらえたのだろう。

 ブラジルは中国、インド、ロシアとともにBRICs(ブリックス)と呼ばれ、世界に存在感を増す有力な新興国の一つである。ルラ氏はG20の顔でもある。中南米諸国や他の大陸の途上国への支援呼びかけもリオ五輪への共感を広げる効果があったに違いない。

 ブラジルには約150万人の日系人が住み、日本からの移民が始まって100周年を昨年祝った。2014年のサッカーW杯開催国にも選ばれており、世界の耳目を集めるスポーツの祭典を立て続けに開くことになった。

 南米大陸は、経済や資源外交でもこれからの日本にとって重要性を増す地域になろうとしている。五輪を通じてこの地域に日本人の目が向くことは必ずやいい影響をもたらすだろう。

 五輪開催地としては犯罪率の高さといった問題が指摘されてきた。だがこれからに期待したい。スポーツを通じて、若者の非行を防ぐ政策が実を結びつつある。リオを推した委員は、街と市民の負の側面ではなく、潜在力を評価したといえる。

 スポーツの持つ力が人々に夢を与え、社会の活力を生み出す。それはどの国にも通じることだ。五輪はブラジル国民の自信を大きく育むだろう。

 総会会場にはオバマ米大統領や鳩山首相らが乗り込み、誘致を競い合った。各国の世論を背に火花を散らし合いながらも、開催地決定の後は互いに健闘をたたえあう。そんな首脳外交もいいものだ。

 盤石の財政やコンパクトな会場配置を柱にした東京の提案は評価を得た。鳩山首相の演説も、2020年までに温室効果ガス排出量を25%削減するという野心的な目標をいれたもので力があった。12月にはCOP15でのより厳しい交渉が待ち受けている。

 東京への誘致は、「世界初のカーボンマイナス(二酸化炭素削減)五輪」を訴える試みだった。敗れたとはいえ、今後の都市づくりに生きれば、これまでの誘致の努力も決して無駄にはなるまい。

原子力の安全―監視役は独立でなければ

 茨城県東海村のウラン加工会社ジェー・シー・オー(JCO)の臨界事故から10年になる。

 この節目が歴史的な政権交代と重なったことを、原子力の安全行政を見つめ直す絶好の機会ととらえるべきではなかろうか。

 経済産業省の原子力安全・保安院が現場に目を光らせ、内閣府の原子力安全委員会が保安院の判断の妥当性を審査する。現在の安全行政は、そんな体制になっている。

 まず、原子力の安全性を高める上で保安院はどうあるべきかを考え直さなければならない。

 保安院は01年1月の省庁再編で発足した。JCO事故をきっかけに安全規制への不信感が広がるなか、旧通産省や旧科学技術庁などに分散していた原子力の規制部門をまとめ、組織や人員を強化したうえでの船出だった。

 原発の定期検査や耐震チェックを担うほか、原子力施設が事故や地震に見舞われた際は、トラブルの原因究明や再発防止策を点検する。

 問題は、原子力行政の推進役をつとめてきた経産省の所管の下に置かれている点だ。それで客観的な規制ができるのかという懸念は根強い。

 朝日新聞社が昨年、原発がある21市町村の首長に保安院のあり方を尋ねたところ、12人が組織上の改善を求め、うち8人は経産省からの分離・独立が必要だとした。視線は厳しい。

 自民党政権は「原子力を慎重に進めるためには推進官庁の内側にブレーキがいる」という理屈で保安院の改革に手をつけてこなかった。「規制と推進は分離されている」と国際原子力機関(IAEA)に評価されたことも、現状維持の支えになっている。

 だが、1人の大臣が推進と規制という相反する仕事を受けもち、人事交流で幹部職員が両部門を行き来するような体制が理想的とは言いがたい。安全行政の信頼性を高めるには、保安院を経産省から切り離すべきだ。海外でも規制部門の独立は一般的である。

 民主党は現行制度を抜本的に見直すと言ってきた。鳩山政権は、保安院の経産省からの分離を最優先に取り組まなければならない。

 こうした改革は、安全委の強化とセットでないと意味がない。

 安全委の法的権限を強め、その下に保安院を移す形で規制部門を一本化する。そんな案が効果的だろう。元原子力安全委員会委員長代理の住田健二氏も先月24日の本紙「私の視点」で、同じような趣旨の主張をしている。

 安全委を強めるには、技術面の鑑識眼も高める必要がある。メーカーや電力会社に頼らず、独自に安全性を判断できる力をつけなければ看板倒れだ。

 原子力安全の担い手を、名実ともに独立させなければならない。

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