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「鞆の浦」判決 景観保護と地域振興の両立を(10月3日付・読売社説)

 貴重な景観の美しさを享受する「景観利益」の保護を前面に打ち出した司法判断である。

 広島県福山市の「(とも)の浦」で、県と市が計画している埋め立て・架橋事業について、広島地裁が、埋め立て免許の交付差し止めを認める判決を言い渡した。

 万葉集にも詠まれた景勝地の鞆の浦は、「潮待ちの港」として栄えた瀬戸内の要衝だ。町並みには江戸時代の面影が残る。宮崎駿監督が映画「(がけ)の上のポニョ」の構想を練ったことでも知られる。

 判決は、鞆の浦について、「歴史的、文化的価値を有する国民の財産」との認識を示した。さらに埋め立てが行われれば、「住民が日常的に恩恵を受けている景観利益について、重大な損害が生じる恐れがある」と指摘した。

 景観利益の重要性と、埋め立てや架橋の必要性を天秤(てんびん)にかけ、景観利益の保護に軍配を上げた適切な判断といえよう。景観利益を理由に、公共事業が事前に差し止められるのは、初めてである。

 観光地の開発のあり方に、一石を投じることになろう。

 景観利益については、東京都国立市の住民らが高層マンションの上層階撤去を求めた訴訟で、最高裁が2006年、「法的保護に値する」との判断を示した。この考え方が、今回の判決に影響を及ぼしたのだろう。

 鞆の浦の街路は、車がすれ違えないほど狭い所が多く、観光客の車などで混雑が深刻だ。人口は減り、高齢化も進んでいる。

 県と市の開発計画は、港を横切る海上のバイパス橋で交通難を解消し、湾岸の埋め立て地に観光客用の駐車場やフェリーふ頭を整備し、地域の活性化を図ろうというものだ。

 訴訟は、開発に反対する住民らが起こしたが、一方で、利便性の向上を望み、事業に賛成する住民も多い。住民の間には亀裂が生まれているという。

 藤田雄山知事は昨年6月、国に埋め立て免許の認可を申請した。だが、金子前国土交通相は、「国民の合意が必要」と慎重姿勢を取り続け、認可されないまま政権が交代した。

 前原国交相は、上級審の判断を見定めた上で対応する考えを示している。

 山側にトンネルを通す代替案もあるという。景観を保全しながら、地域を振興させていく。難しい課題だが、これを実現するために、自治体は計画を再検討することも必要ではないだろうか。

2009年10月3日01時27分  読売新聞)
東京本社発行の最終版から掲載しています。
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