「商いの切っ先がなまる」。そんなせりふが落語「明烏(あけがらす)」にある。大店(おおだな)の主が堅物の息子に向かって「どこのお茶屋はどういう格だぐらいのことを覚えてもらわないと、いざというとき商いの切っ先がなまっていけません」。先代桂文楽の名調子で聞き覚えた。
▼長い慣行で切っ先がなまってしまったのが出版界なのだろう。定価1000円の本を本屋さんは780円で仕入れる。売れば220円のもうけ。売れなければ780円のまま引き取ってもらう。だから仕入れにリスクがない。一方で中小書店は思うような仕入れができない。半ば自動的に本が送られてくるからだ。
▼この委託販売なる仕組みが続いてきた理由はあるのだが、これでは委託の名の通り、書店はただの場所貸しでありかねない。では、1000円の本を650円で欲しいだけ仕入れ、その代わり返品は350円、という仕組みならどうだろう。リスクはあるけれど、売れたら利幅が大きい。こちらは責任販売である。
▼今月から来月にかけ、幾つかの出版社が責任販売制を使って本を出すそうだ。商品知識を磨き、売るために知恵を絞る。それが商いの常道で、本だって例外ではない。まだ細々とした実験だが、責任販売が切っ先を研ぎ直す一歩にならないか。ことしの「読書の秋」にはそんな期待も抱く。