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新型用ワクチン―公費負担を広げるべきだ

 新型の豚インフルエンザのワクチンの接種をどのように進めるか。政府が基本方針を決めた。

 今月半ばすぎから優先度に応じ、患者を診る医師や看護師ら、妊婦や持病のある人、1歳から小学3年生までの子などの順に接種を始めるという。

 今回の新型インフルエンザのウイルスは肺炎を起こしやすい性質があり、妊婦や子ども、持病をかかえた人などは重症になるおそれがある。健康な人でも重症化の例が報告されており、これから感染が広がれば、重症者はさらに増えることも心配されている。

 ワクチンは、感染を完全には防げないが、症状が重くなるのを抑える効果はあるといわれる。国民の命を守るだけでなく医療の負担も減らす効能もあるのだから、賢い使い方をしたい。

 その点で、いくつか問題がある。

 まず、1人2回分の費用6150円は自腹で、とされていることだ。これは、決して軽い負担ではない。

 欧米主要国では、新型インフルエンザのワクチン接種は原則として無料とするところが多い。

 厚生労働省は、優先接種の対象者が生活保護世帯の場合は無料とするほか、人口の約3割を占める市町村民税非課税世帯についても軽減措置を受けられるようにする方針だ。だが、経済的な理由で接種をためらう人が出ないようにするには、公的補助の範囲をできる限り広げるべきではないか。

 「子どもの安心・安全」を政策に掲げる鳩山政権として、子どもだけでも無料にするという選択肢もあろう。

 次に、接種態勢の問題も大きい。

 接種場所は、国が委託する病院などとなっている。寒くなって流行が本格化すれば、こうした医療機関に患者が殺到することも予想される。

 患者の治療とワクチン接種を両立させるのは、人手も限られる中、容易ではないだろう。保健所などでも接種できるようにするなど、接種の場を広げる工夫もしてほしい。

 ワクチンによる副反応への対応も重要だ。輸入品も含めれば、年度内に用意されるワクチンは7700万人分になる。これだけ多くの人が接種を受ければ、重い副反応に見舞われる人が出るかもしれない。

 厚労省は、副反応を素早くつかんで専門家が評価するしくみをつくるという。この態勢づくりは、不正確な情報による混乱を避けるためにも急務だ。

 ワクチンの安全性や有効性は、使っていくうちにわかってくることも多いに違いない。ウイルスが変異することだって考えられる。状況は変わりうる、ということを肝に銘じたい。

 走りながら考え、対応していかざるを得ないのが、新型インフルエンザ対策だ。そのためにも、政府には的確な情報発信が求められる。

スマトラ沖地震―がれきの下の命を救え

 大地震が起きたインドネシア西部スマトラ島の被災地で、救出、救援活動が本格化している。

 震源に近い都市パダンを中心に犠牲者はすでに千人を超えた。なお数千人が倒壊した建物の下敷きになっているという。地元の救出隊にまじって、現地入りした日本の国際緊急援助隊の65人の救出チームも作業を始めた。

 生存者に残された時間は少なく、救出は一刻を争う。インドネシアの人々はその活動をかたずをのんで見守っていることだろう。救助犬や特殊カメラをうまく使いこなして、一人でも多く助け出してほしい。

 医師や看護師ら十数人からなる医療チームは、パダンの市街地で負傷者の手当てをはじめた。打撲や骨折の治療とともに、突然の人生の暗転に打ちのめされた人々の心のケアも必要だ。

 スマトラ沖地震の直前、南太平洋のサモア諸島が地震と津波に見舞われ、その前にはフィリピンに台風が襲来し、それぞれ多くの犠牲者が出た。

 立て続けにアジアで大きな自然災害が起きた。各国の防災体制とともに日本の対応能力が試される事態である。

 緊急援助隊は、スマトラ沖地震の発生翌日にチャーター機で現地へ向かった。中国・四川大地震など、これまでの災害では出発が遅れがちだったのに比べると早い立ち上がりだった。

 緊急援助隊の要員を派遣する各官庁の出動態勢が整っていたことと、インドネシア政府からすぐに支援要請があったことが大きかった。

 ただ、サモアでは医療チームを送り込もうとしたが、オーストラリアなどからの救援が早く、結局見合わせた。フィリピンでは人道NGOの活動にとどまっている。

 緊急支援には国際機関などによる調整が必要だし、呼応して動ける日本側の協力体制も整えなければならない。各国の防災当局間をネットワークで結び、NGOへの支援を強める。そんな普段からの態勢づくりが欠かせない。

 緊急支援や復旧支援の後に必要なのが、災害に強い町づくりや災害科学の人材育成などの取り組みだ。

 アジアでは04年のスマトラ沖地震と大津波被害などを機に、津波警報の仕組みづくりや建物の耐震性向上への支援が進められ、防災教育の必要性も叫ばれた。いずれも災害先進国でもある日本が音頭をとってきた。

 サモアで高台に避難して助かった人もいた。これまでの努力の成果と信じたい。ただ、コンクリートの建物がもろくも崩壊したスマトラの惨状を見ると、耐震性の向上が容易に進まないこともわかる。

 地球温暖化による気候変動や急激な都市化によって、自然災害がもたらす脅威は増大している。アジアの地域防災協力をさらに前進させたい。

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