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盲目の箏曲家、宮城道雄の名を世界に広めた名曲「春の海」は、瀬戸内の景色だという。本人は「島々に桃の花が美しく咲いていると船で聞き、ヒントをだいたい得たわけです」と語っている▼8歳で失明した宮城。幼い記憶と人の話に、自らとらえた風や潮騒を重ね、変化に富んだ琴と尺八の二重奏に仕上げた。昭和の初め、35歳だった。何度も聞かされたであろう親の故郷、鞆(とも)の浦の風景も、音符のいくつかになったと思われる▼広島県福山市の景勝地、鞆の浦の一部を埋め立て、長さ180メートルの橋をかける計画に、広島地裁が待ったをかけた。判決はその景観について、住民の利益にとどまらず「国民の財産」と踏み込む。景色を守るために公共事業が止められるのは初めてという▼鞆の浦は瀬戸内海のほぼ中央にある。満潮時には東西からの潮が沖で出合い、東西へと引いていく。潮待ちの港として古代から栄えたゆえんだ。大伴旅人らの吟詠が万葉集に残る▼映画監督の宮崎駿(はやお)さんは4年前、ここに2カ月滞在し、入り江を眺めて「崖(がけ)の上のポニョ」の想を練った。「開発でけりがつく時代ではない。公共工事で何かが劇的に変わるという幻想は捨てたほうがいい」と判決を喜ぶ▼優しくたゆたう海は古今の才能を刺激し、言葉、音、映像となって私たちを感動させてきた。「国民の財産」の再生産である。一方に「これでは救急車も入れない」という生活の叫び。行政には、かけがえのない景色と、足元の暮らしの両方を守る知恵が求められよう。納得の司法判断である。