日本の気象災害として記録の上で最多の、五千人を超える死者・行方不明の出た伊勢湾台風から五十年。その教訓を生かした安全な国土づくりが進み、安心できる暮らしは実現しただろうか。
伊勢湾台風は一九五九年九月二十六日午後六時ごろ紀伊半島に上陸、翌日午前零時すぎ富山市東で日本海へ抜けた。上陸時の中心気圧は室戸台風(三四年九月)より高かったが、死者・行方不明はコース東側の愛知、三重両県だけで四千五百人を超え、九州を除く全国で犠牲者が出た。
愛知、三重両県の死者・行方不明が多いのは、台風に伴い高潮が堤防を越流、破壊し、干拓・埋め立て地や地盤沈下する低地に浸水したのが主な原因である。名古屋市の一部では浸水の水位三〜六メートル、湛水(たんすい)最長六十日に及んだ。
台風など気象災害は地震と異なり、予報が可能で、事前に相当の対応ができる。伊勢湾台風も上陸約七時間前に暴風雨、高潮、波浪警報が出ていた。
旧建設省の資料では、愛知県碧南市の碧南干拓地は、当日午後三時までに全住民百三戸四百五十五人が避難、一人の犠牲者もなかった。逆に避難・誘導が後手に回った地域では犠牲者を出した。
旧総理府資源調査会は被災の三年前、愛知、岐阜、三重県を含む「木曽川流域濃尾平野水害地形分類図」を公表した。洪水などで浸水、排水不良とした地域が、伊勢湾台風の被災地と驚くほど一致する。これも役立たなかった。
九〇年代から局地集中豪雨など異常気象も目立つ。伊勢湾台風と同じか上回る規模の高潮や洪水もあり得る。備えは大丈夫か。
国土交通省中部地方整備局などが今年三月、室戸級台風が伊勢湾台風と同じコースで襲った場合のシミュレーションを公表した。浸水範囲が広域で複数自治体にわたるのは伊勢湾台風と同じだ。
浸水地域外に避難所を設け、安全なルート、避難時間を確保する必要がある。住民は他自治体の避難所へ行く場合もある。避難勧告なども、個別の自治体が出していては混乱と被害を増す。首長の迅速な協議か県レベルで措置できる態勢を検討すべきだ。
伊勢湾台風後、高潮対策の施設は新設、強化されたが、老朽化や巨大地震で沈下も心配される。点検を怠ってはならない。
東海地方に限らず海に面した都市圏ならどこでも、伊勢湾台風が残した教訓を今後の防災に生かすよう、積極的に心掛けたい。
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