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天声人語

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2009年9月27日(日)付

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 作歌の経験などなく、作法も知らない。だがどうしても詠みたいと、ある航空工学の学者が残した一首がある。〈はるのそらの とはのなみだの ひとつゆを いまなきひとの たまのみまえに〉▼漢字を使えば、「春の空の永遠(とわ)の涙のひと露をいま亡き人の魂(たま)の御前(みまえ)に」となるのであろう。1966(昭和41)年2月、全日空機が東京湾に墜落して133人全員が亡くなった。その調査に加わった山名正夫東大教授(当時)が、犠牲者の霊前にささげた鎮魂の歌である▼ジェット時代の幕開けに、それらの大事故が相次いで、国の運輸安全委員会の前身になる組織はつくられた。その委員会で、4年前のJR宝塚線(福知山線)の事故をめぐる調査情報の漏洩(ろうえい)が明るみに出た。調査の中立性を揺るがすゆゆしき不祥事である▼JR西日本は報告書の修正まで頼んでいて悪質だ。安全より業績という社風が改まっていないのだろうか。もともと鉄道も航空も、専門性に閉ざされた狭い世界である。調査側と当事者側の「なれ合い」は、古くて新しい懸念でもあった▼66年の全日空の事故でも利害関係者が調査団に入っていたという。影響があったのかどうか、「原因不明」として調査は終了する。組織と相いれなかった山名教授は途中で辞表を出した▼冒頭の一首は、真相に至れぬことを死者にわびる歌でもあったと、人づてに聞いたことがある。宝塚線事故の犠牲者は107人を数える。揺るがぬ調査に基づく再発の防止こそが、せめてもの鎮魂なのだと肝に銘じなくてはならない。

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