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9月24日付 編集手帳

 声に出して読んだとき、名文は呼吸が乱れない。息苦しくなることもない――優れた文章家で知られた英国の哲学者バートランド・ラッセルの説という。書物も朗読し、耳で文章を読んだと伝えられる◆その人もラッセルの流儀であったか、おそらく仕事部屋でひとり、文章を耳で聴きつつ推敲(すいこう)していたのだろう。向田邦子さんが短編小説の草稿を音読した録音テープが見つかったという◆遺族から鹿児島市のかごしま近代文学館に寄贈された遺品のなかにあったもので、一字一句を確かめながら読む声の合間に、何かを書き込んだり、筆記用具を置いたりする音が入っている◆航空機事故により、直木賞受賞の翌年に51歳で世を去った向田さんには、執筆風景の写真も残っていない。山本夏彦さんが〈突然現れてほとんど名人である〉と評した文章の、創作過程を知るうえで貴重な資料だろう◆耳をすまして幾度も聴き直したはずのテープに録音されていた短編は、題名を「耳」という。何か別のことを語るかのように書き出し、いつも鮮やかに題名に(しゅう)(れん)していった故人のエッセーを読んでいるようで、せつない。

2009年9月24日01時32分  読売新聞)
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