鳩山由紀夫首相が国連気候変動サミットで、温室効果ガス「25%削減」の中期目標を表明した。科学の要求に基づく「政治の意思」は示された。さて次はその意思をどうやって通すかだ。
「一九九〇年比で言えば二〇二〇年までに25%削減します」。鳩山首相の演説に、世界の首脳から拍手がわいた。新首相の外交デビューは、成功だった。
京都議定書に続く、温室効果ガス削減の新たな目標づくりの交渉期限は、年末に迫っている。
地球の運命をかけたその重大な交渉は、先進国と途上国が、お互いに相手の責任と義務を主張し合って譲らず、手詰まりに陥った。しかし、欧州連合(EU)に続いて日本が高い削減目標を示したことで、打開への薄日が差した。あとは、このところ、やや足踏み状態の米国が、刺激を受けてこれに続けば、途上国側も何らかの変化を見せずにはいられまい。
「鳩山公約」は、途上国を含む主要排出国の削減参加が前提だ。その代わり、対策に必要な技術移転と資金提供を主導する「鳩山イニシアチブ」を用意した。
途上国グループを率いる中国も、温暖化の脅威は強く感じている。技術や資金は不可欠だ。今日から米・ピッツバーグで開かれるG20の金融サミットでは、途上国への温暖化対策資金提供の枠組みづくりが主要な議題になる。鳩山公約を呼び水に、援助総額、資金管理の方法などを具体化させて、途上国側の関心を引き寄せたい。
鳩山公約にはもう一つ、国民へのメッセージが込められた。それが「政治の意思」である。
従来の削減目標は、官僚らが積み上げたコストの上で議論されてきた。そのため、温暖化対策のマイナス面が強調されすぎて、膨大なコストが経済に支障をきたすと産業界が反発し、負担を強いられる生活者にも不安を抱かせた。
鳩山首相は「政治の意思として、必要な政策を総動員して実現を目指す」と、政治家として成し遂げるべき目標を優先させた。
「25%削減」という、政治の意思は示された。次は実現への道筋だ。マイナス面もあるだろう。だが、省エネの普及が新産業と雇用を生み、脱化石燃料で住環境や家計は改善できる。政治の意思が実現されると、どんな社会ができるのか、政府は速やかに未来図を描いてほしい。国民が安心して削減に取り組める土壌づくり、それが「政治の責任」だ。
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