民主党圧勝、自民党惨敗という衆院選を受け、民主党が今月半ばの新政権発足に向け準備を本格化させている。しかし、政治風景が一変した列島には、得も言われぬ微妙な空気が漂っている。
民主党は308議席も獲得した。野党第1党が選挙で過半数を取り、政権を奪取するのは戦後初のことだ。にもかかわらず民主党に対し、沸き立つような熱狂はなく、期待と不安が静かに交錯している。民主党の政権担当能力が未知数なだけに、やむを得ないのかもしれない。
民主党幹部の表情も一様に硬い。浮かれた様子を見せて反感を買わないよう自重しているというより、責任の重さを痛感しているのだろう。
今後、社民党などとの連立協議や内閣、党人事が注目される。政策遂行に向けた体制づくりが的確に進むかどうか。新政権の命運を左右する最初の試金石となろう。
仕組みを一変
民主党は革命的な変革に挑むことになる。選挙で訴えてきた公約には、これまでの政治の仕組みや税金の流れを一変させる内容が並んでいるからだ。
政府の意思決定の過程を、旧来の官僚依存体質から脱するという。予算編成や外交・安全保障などの基本方針を策定する「国家戦略局」を新設し、政治主導の政策決定システムを構築する。
政府と与党による「二重権力」構造を打破するため、与党議員が100人以上政府に入る。予想される官僚の抵抗をいかに排除するかが鍵を握る。改革のプロセスを透明化し、国民に情報開示を徹底することが近道ではないか。
財政の支出先は、企業・団体から家計へと大きくシフトする。看板政策は子ども手当や高速道路の無料化などだ。問題は財源である。予算の大幅な組み替えで対処すると強調する。
自民党などから、具体性に欠けるとさんざん批判されてきたが、やってみる価値は十分にあろう。年末までに予定される新年度の予算編成で力が試される。多くの国民から共感が得られる対応ができれば、「革命的な政権」として認知されるだろう。
お手並み拝見
不安な要素もたくさんある。政治経験のない大量の新人が当選し、官僚をコントロールできるかどうか懸念される。選挙を仕切った小沢一郎代表代行が存在感を強め、「二重権力」化も指摘される。
さらに日米の自由貿易協定(FTA)問題などで、鳩山由紀夫代表の発言のぶれも気にかかる。だが、ここはしばらく様子見といきたい。
米国では新政権が発足すると、100日間はハネムーン(蜜月)期間と呼び、議会やマスコミ、国民などが批判を控える慣習がある。「お手並み拝見」という感じだろう。
日本では基本的に自民党内で首相が代わる「疑似政権交代」が長く続いてきた。主たる政策には大きな違いが生じないため、新政権はすぐに結果を求められてきた。
今回は文字通りの政権交代だ。即、結果を要求するのは酷な面がある。米国とは選挙制度が違うとはいえ、100日程度は政策実現に向けた準備期間として、静かに見守る政治風土が生まれてもよいのではないか。
強い野党が必要
大敗した自民党の再生は厳しいだろう。だが、結果を真摯(しんし)に受け止め、解党的な出直しを図ってもらいたい。
日本の政治が政権交代時代の入り口にさしかかっているからだ。有権者が政権を選び、具合が悪かったら次の選挙で別の党に任せる。政治に緊張感が生まれ、好結果が期待できる。
政権交代が普通に繰り返されるには、常に政権を狙える力量を備えた強い野党の存在が欠かせない。
自民党と旧社会党を軸とした1955年以降は「55年体制」といわれた。2009年の衆院選を機に政権交代が常態化すれば、「09年体制」の始まりとして後世の歴史に刻まれよう。自民党を中心にした野党の奮起に期待したい。
まず、新政権発足後の臨時国会が焦点となろう。鳩山代表は民主党に欠ける日本の将来ビジョンを明確に示す必要がある。対する野党は衆院選で目立ったような批判に終始せず、堂々と正面から論戦を挑む好機である。