HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Last-Modified: Sun, 20 Sep 2009 17:32:48 GMT ETag: "2a3c55-4438-c0f85000" Content-Type: text/html Cache-Control: max-age=5 Expires: Mon, 21 Sep 2009 01:21:11 GMT Date: Mon, 21 Sep 2009 01:21:06 GMT Content-Length: 17464 Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2009年9月21日(月)付

印刷

 クマというのは器用貧乏らしい。木にも登れば穴も掘り、泳ぎもできるが、何でもできるのは何でもへたなのと同じ。木登りはネコに、穴掘りはアナグマに、泳ぎはカワウソに及ばないと、雪博士で知られた高橋喜平さんが書いていた▼そんな身ごなしに愛嬌(あいきょう)があるのか、動物としてのイメージは「癒やし系」だろう。テディベアあり、プーさんあり、日本では金太郎の相撲の相手でもある。だが、おとなしいツキノワグマも牙をむけば猛獣に豹変(ひょうへん)する▼岐阜県の乗鞍岳で観光に来た人たちが襲われ、9人が負傷した。スカイラインのバスターミナルでの惨事に、あたりはパニックになったそうだ。毎年秋に多発する、人とクマとの遭遇の悲劇である▼現地は標高が高く、餌になるような木の実などないはずだと専門家は言う。昔、高所の山小屋で残飯をあさるクマを見たことがあるが、今回もそのくちだろうか。集落近くでの遭遇多発といい、人との棲(す)み分けは難しくなるばかりのようだ▼きょうが命日の宮沢賢治に「なめとこ山の熊」という物語がある。熊撃ちと熊。殺し殺されるものの交感を描いて切ない。「熊。おれはてまえを憎くて殺したのでねえんだぞ」。熊撃ちの声は、毎年、多くのクマをやむなく捕殺する今の時代に重なって聞こえる▼顔を合わさずに暮らす。それだけのことが難しい。実のなる木を山に植えるなど、志ある人が共存の道を探っているが、先は遠い。人の安全は何より大切だ。一方でクマを守るのも、たまさか人に生まれた側の務めだと考えたい。

PR情報