米国がミサイル防衛(MD)の東欧配備計画を撤回すると発表した。ロシアとの対立要因が一つ取り除かれる。これを弾みに米ロの協調外交をさらに進め、戦略核削減など軍縮につなげたい。
オバマ米大統領はMD東欧配備について「焦点はイランであり、ロシアではない」と述べた。MD配備に対するロシアの懸念を払拭(ふっしょく)し、イラン核問題解決での協力を求めたものと解釈できよう。
MD配備計画は米国のブッシュ前政権が進めた。「イランが長距離ミサイルを開発、配備すれば脅威は欧州諸国に及ぶ」という理由で、防衛のため二〇一二年までにポーランドに地上配備型迎撃ミサイルを配備、チェコにレーダー施設を建設する予定だった。
東欧に隣接するロシアは、米国のミサイル施設が目前に設置されることに、イランの脅威に名を借りた圧力だと強く反発。昨年夏には「新冷戦」ともいわれるほど米ロ対立は深刻化した。
米国防総省は計画中止についてイランの脅威は中、短距離ミサイルであり、艦船による海上からのミサイル防衛網で対抗するなど戦略を転換すると説明している。
オバマ政権は力に頼る外交からの「変化」を実践している。手始めに、年内に失効する米ロの第一次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新たな核軍縮条約の締結を目指すことで合意した。
核弾頭と運搬手段の数を大幅に削減すると七月に合意し、さらに米国がMD計画を撤回したことで、米ロ核軍縮交渉の年内合意にも展望が開けそうだ。
オバマ大統領は二十四日の国連安保理首脳級会合に出席する。「核なき世界」の実現を呼び掛ける決議採択を目指すが、核大国である米ロが軍縮をリードする姿勢をこの場で明確にすべきだ。
懸念材料もある。米国の譲歩を「好機」とみて、ロシアが東欧への影響力拡大を図る可能性も否定できない。再び対立局面に陥らないようロシアの自制を求めたい。
イランの核問題では、ロシアはかつてイランのブシェール原子力発電所の建設を支援し、燃料を供給した。イラン制裁を盛り込んだ安保理決議にも前向きではないといわれる。
オバマ政権は、東欧MD計画撤回の代わりに、ロシアに対しイランの核兵器開発を止める「国際的な包囲網」に加わるよう促すとみられる。米ロによる新時代の協調外交の試金石となる。
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