昭和の名コメディアン、古川ロッパはその日その日の自分の芸を省みて、じつに様々な造語を日記に残している。いわく腐演、汗演、不機嫌演、ダレ演……。たまには熟演や快演に満足もするが、ほとんどは舞台の不首尾を嘆く日々だ。
▼この悩み多き喜劇人なら、例の女優の不品行とその後の騒ぎをどう評することだろう。真夏の逮捕劇からちょうど40日、きのう「のりピー」なる人は保釈された。役のイメージを打ち砕いた悲しき「醜演」「恥演」か。そして事件をめぐる芸能マスコミのドタバタぶりは、これはロッパの言う「馬劇」が似合おう。
▼のりピー騒動の夏から秋は、むろん政治の季節でもあった。政権交代を果たした鳩山内閣は高支持率というからまずは快演かもしれない。しかし大臣のなかには、「徳政令」でもなかろうが金融機関からの借入金の返済猶予制度を口にする人もいて気にかかる。ロッパは芸の基本を忘れた芝居を「邪劇」と呼んだ。
▼さて少しは気分を変える話題はないかと見渡せば、一世を風(ふう)靡(び)した米国のフォークグループPP&Mの女性ボーカル、マリー・トラバースさんの訃(ふ)報(ほう)を知った。「風に吹かれて」もいいが「レモンツリー」も「パフ」もいい。あの切々たる歌声に魅せられた方も多かろう。耳によみがえる「哀演」「愁演」である。