年金記録不備問題で、名古屋市が独自調査に乗り出した。解決に向けた新しい動きとして注目される。年金不信を招いた不祥事に決着をつけるため、関係行政機関が力を合わせるべきだ。
持ち主不明の年金記録が五千万件もあることが判明したのは二〇〇七年。二年たった今も、社会保険庁が解明できたのは約半数でしかない。
難航する調査に、新機軸が打ち出された。名古屋市が十四日から、河村たかし市長が四月の市長選のマニフェストで約束した通り、年金記録の調査を始めたのだ。
対象は、基礎年金番号や氏名の一部が間違っているだけで、解決の可能性が高いとされる記録約四千件。社保庁の調査では、支払った可能性の高い人に問い合わせても住所変更などで行き詰まることが少なくない。名古屋市は、市内の対象者について社保庁から情報提供を受け、国民健康保険や介護保険など市が持っている情報を基に転居先の特定につなげる。
なぜこれまでどの自治体もやろうとしなかったのか。神戸市が早速、同様の調査をする方針を打ち出した。ほかの市町村もこの手法を検討すべきだろう。
ただ、電話だけでなく訪問による調査も必要とみられ、市町村の負担は小さくない。
〇二年度に国民年金保険料の徴収業務が市町村から社会保険庁に移管され、市町村の年金担当職員は激減した。名古屋市は区役所の担当職員を含め、約百人態勢で調査に当たるが、中小の自治体からは「人の余裕がある政令指定都市ぐらいでないと難しい」との声も聞かれる。
しかし、記録不備は深刻な年金不信を招いた重要な問題だ。住民に近い地方自治体として積極的に関与すべきだ。コスト面で独自調査が無理な市町村でも、社会保険庁の調査への協力を強化してもらいたい。
年金制度の改革という最重要課題に取り組むためにも、この問題の早期解決が迫られている。
長妻昭厚生労働相は就任会見で「今後二年間、国家プロジェクトとして調査に取り組む」と決意を述べた。また、民主党は被害者救済のため、年金記録確認第三者委員会の審査基準を大幅に緩和する法案を今秋の臨時国会に提出する方針も固めた。
いろいろな行政機関がそれぞれの場で、できることを探し、やってみるべきだ。
この記事を印刷する