鳩山新政権がスタートし、日本の政治史に新たな一歩を記した。政策実現には説明責任が不可欠だが、国民を納得させる「説得責任」も果たしてほしい。
澄み渡る青空の下、国会に足を踏み入れた新人衆院議員の初々しく希望に満ちた姿は、新しい時代の到来を感じさせる。
その一人、薬害肝炎訴訟の元九州原告団代表の福田衣里子議員は国会前庭で「社会保障のしっかりした、希望を失わずにすむ国をつくりたい」と記者団に語った。
新人はじめ国会議員は皆、国政を志した初心を忘れず、国民の声に耳を傾け続けてほしい。
歴史を変える重責
政権交代を果たし、新首相に就いた鳩山由紀夫民主党代表にも、引き締まる一日だっただろう。
この日の朝、緊張した面持ちで「歴史を変えるというワクワクする喜びと、歴史をつくらなければならない大変重い責任と両方が交錯している」と話した。
鳩山氏が自任するように、鳩山内閣はその誕生から、日本の政治史を変え、新しい歴史をつくる使命を負った政権だ。
政権交代可能な二大政党制を目指して衆院に小選挙区比例代表並立制が導入されてから十五年。衆院選で野党が単独過半数を獲得して政権交代を果たすのは戦後初めてであり、それを実現させたのは、自民党政治からの変革を求める有権者の切実な思いである。
ただ、自民党政治とは違う新しい歴史をつくるといっても、その具体像は描き切れていない。
鳩山氏は就任後初の会見で「試行錯誤の中で失敗することもある。国民にもご寛容を願いたい」と語った。針路が見えない中、寛容でいられる時間は長くはない。
鳩山氏は日本をどこに導き、国民生活をどう改善するのか。まずは所信表明などの機会を通じて政治理念を明らかにすべきだ。
常に「国民目線」で
各閣僚にも注文がある。政策実現には、関係者はじめ国民に説明を尽くすだけでなく、納得させる労苦を惜しむな、ということだ。
例えば、七十五歳以上を対象とした後期高齢者医療制度。二〇〇五年衆院選の自民党マニフェストに「新たな高齢者医療制度の創設」が明記され、自民党圧勝で形式上は信任されたが、導入時には激しい反発を招いた。
厚生労働省や当時与党だった自民、公明両党が導入時、「なぜ七十五歳で線引きするのか」などと反発する高齢者の理解を得る努力をどれだけしたのか。国民に不信が残れば、職責を全うしたことにはならない。
民主党は〇九年衆院選マニフェストに後期高齢者医療制度の廃止と、医療保険を地域単位で段階的に一元化することを明記した。
制度の改廃には、導入時と同様の混乱が起きるかもしれないが、国民や関係者から大方の納得が得られる形で進めてほしい。選挙で信任を得たからといって、自民党政権末期のような「上から目線」で強行すべきではない。
長妻昭厚生労働相の仕事は年金、医療、介護、雇用と幅広い。「消えた年金記録」を追及した「国民目線」を持ち続けてほしい。
高速道路無料化や八ッ場ダム中止問題を抱える前原誠司国土交通相にも同様のお願いをしたい。
民主党は無料化で物流コストが下がり、地域経済が活性化すると説明するが、渋滞が増え、二酸化炭素の排出量が増えるとの指摘がある。バスや鉄道など地域の交通体系や料金徴収員の雇用などへの影響も避けられない。
前原氏は官僚の振り付けに踊ることなく、懸念に一つ一つ丁寧に答えてほしい。それが政治への信頼を得る唯一の道でもある。
税金の無駄遣い根絶は必要だが、ダム建設を前提に立ち退きに応じ、故郷を捨てざるを得なかった人たちの痛みに思いを至らせない政治が、心に響くわけがない。建設を中止するにも誠心誠意、説明と説得に努めるべきだ。
マニフェストで掲げた、中学生以下を対象とした子ども手当(一人月二万六千円)や、農家などへの戸別所得補償制度にも「ばらまき」との批判があり、対象外の人たちは不公平感を訴える。
政策の背景にある理念や哲学が明確でなければ、国民の大方の納得は得られないだろう。担当大臣には説得責任が課せられていると心得てほしい。
自民は監視機能を
鳩山政権が「数の力」で国民の望まない政策を押し通そうとした場合、それをチェックし、待ったをかけるのは自民党の役割だ。
そのためにも、総裁選での論戦を通じて党再生の道を探り、一日も早い出直しを期待する。
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