自由競争を否定する鉄鋼業界の慣行が断罪された。建材用の亜鉛めっき鋼板をめぐる価格カルテル事件で東京地裁は15日、新日本製鉄の子会社、日鉄住金鋼板など3社と当時の幹部6人を有罪とした。
このカルテルは小口顧客向けの鋼板でメーカーが会合を重ね、一斉値上げをしていたものだ。行政処分の課徴金だけでは済まない悪質さがあるとの判断から、価格カルテルとしては17年ぶりに刑事訴追された。
司法の場で、業界の慣習がはっきり犯罪と認められた意味は重い。鉄鋼業界は違法行為の根絶を目指し本気で努力しなければならない。
独占禁止法に違反すると企業が大きな打撃を受けることも今回の事件で明確になった。公正取引委員会は8月末、3社に合わせて約155億円の課徴金納付を命じた。1件あたりの課徴金としては、ごみ焼却炉建設工事の談合で2007年に出された約270億円に次ぐ額だ。
3社のうちのひとつの日新製鋼は今期はもともと大幅赤字と予想していた。そこに約55億円の課徴金が加わり、業績はさらに苦しくなる。
06年1月に改正独禁法が施行され、課徴金は引き上げられた。法令順守の経営をしなければ企業を成長させることができず、株主や従業員にも報いられない。株主代表訴訟になる可能性もあることを経営者は肝に銘じるべきだ。
今回の裁判で被告側は、カルテルは原料の高騰を転嫁するためで暴利を得る目的はなく、悪質ではなかったと主張した。違法な協調値上げで工務店などに負担をかけたことへの反省はなかった。カルテルの温床でもある自己中心的な考え方を改めるよう鉄鋼業界には強く求めたい。
改正独禁法では不正を自主的に申告した企業が証拠を提供する代わりに、課徴金や刑事告発を免除する制度ができた。今回の事件が起訴に至ったのはこの規定にもとづき、JFE鋼板が公取委の調査や東京地検の捜査に全面協力したためだ。
不正を許さず、企業経営に規律を求める動きはますます強まっている。課徴金を引き上げ刑事罰を強化した再度の改正独禁法も6月に成立した。そうした社会の流れを鉄鋼業界はしっかり認識すべきである。