「鳩山内閣」がきょう発足する。有権者が衆院選で示した民主党政権への期待に応えるには、政権交代の果実をできるだけ早く実らせることが必要だ。
きょうの首相指名選挙を前に、国会議事堂内ではすでに、政権交代に伴う新風景が広がっている。
衆院本会議場内の与党席には、民主党議員の氏名標が据え付けられ、野党に転じた自民党席側に大きくせり出している。
国会内では自民党が長年幹事長室などとして使っていた正面玄関に近い「一等地」の部屋を、議席激減に伴って民主党に明け渡した。新政権の船出にふさわしい舞台装置は整った。
◆オールスター布陣
これまで内定していた菅直人副総理兼国家戦略局担当相、岡田克也外相、平野博文官房長官に加え、藤井裕久最高顧問が財務相に起用され、赤松広隆、川端達夫、直嶋正行、小沢鋭仁の各氏らも入閣する。
小沢一郎幹事長と距離を置く仙谷由人元政調会長ら論客も起用が決まった。即戦力で新政権をスタートさせようとする鳩山由紀夫新首相の意図がうかがえる。
まさに党内の確執を超えて、実力本位で適材を適所に当てはめる「オールスター」内閣を狙ったと言っていいだろう。
これに国民新党の亀井静香代表が郵政問題担当相兼金融担当相、社民党の福島瑞穂党首が消費者担当兼少子化担当相として閣内に入り、鳩山新首相の両脇を固める。新政権発足劇の役者が舞台装置とともに出そろった。
とはいえ、われわれ有権者が期待するのは舞台装置や役者よりも、舞台上で役者が何を演じるかだ。観客たる有権者を満足させられなければ、政権交代の意義自体が問われ、政治不信は増幅する。期待が大きいだけ、失望も大きくなることを忘れず、緊張感を持って政権運営に当たってほしい。
◆予算編成が正念場
鳩山氏は組閣後に訪米し、気候変動や核不拡散・核軍縮に関する国連での会議やG20金融サミットに臨むほか、オバマ米大統領と初の首脳会談を行う予定だ。
民主党は衆院選マニフェストで「対等な日米同盟」を掲げて日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地の在り方も見直す方向で臨むことを明記した。
歴代自民党政権が躊躇(ちゅうちょ)してきた「米国にものを言う」外交がどこまで可能なのか、当面は鳩山氏の外交手腕を見守りたい。
日本側の要求実現のためにも、鳩山氏がまずは大統領と個人的な信頼関係を築くことが重要だが、幸い、オバマ大統領は地球温暖化対策や核軍縮に積極的で、鳩山氏の姿勢とも合致する。初会談で打ち解けることは十分可能だろう。
鳩山氏の外交姿勢について、日米両国内で反米的との見方があるが、地球的規模の課題での日米協調姿勢が打ち出せれば、そうした懸念も一掃されるのではないか。
首脳外交と並行して、菅担当相の下、国家ビジョンや予算の骨格をつくる国家戦略局が当面、国家戦略室として始動する。「脱官僚依存」の目玉でもある。
最初の仕事は、五月末に成立した総額十四兆円規模の二〇〇九年度補正予算の見直しだ。
民主党は、「国営マンガ喫茶」と批判していた国立メディア芸術総合センター(百十七億円)など、不要不急の事業・基金を凍結し、生活保護の母子加算復活や緊急雇用対策に充てる考えという。
ただ、一部は執行済みで、補正予算を当てにしていた地方自治体には不安も広がる。
また、年末には一〇年度予算編成が控えている。子ども手当の半額実施(月額一万三千円)や公立高校実質無償化などの財源七兆一千億円を、どう捻出(ねんしゅつ)するのか。菅氏は指導力を発揮し、自民党政権との違いを見せてほしい。
米国では新大統領就任後、百日間は「ハネムーン(蜜月)」期間とされ、メディアが厳しい批判を控える慣習がある。
鳩山内閣発足から、ほぼ百日後の年末に編成される予算案は政権交代による果実の一端を示す絶好の機会だ。新政権最初の正念場と肝に銘じるべきだ。
◆真意伝える努力を
党を預かる小沢氏にも注文がある。記者会見などで自らの真意を正確に伝える努力をしてほしい。
今回の閣僚・党役員人事では「小沢幹事長の意向」が独り歩きした。小沢氏の考えを忖度(そんたく)した側近が小沢氏の意向として伝えるようなことがあれば、小沢氏としても本意ではないだろう。
百四十三人に上る新人議員の指導も課題だ。小沢氏は地元回りの徹底を指示したが、それを次の選挙に向けた支持つなぎ留めに終わらせず、有権者の声を吸い上げ、国会に伝える機会にしてほしい。
この記事を印刷する