またしてもやってのけた。米メジャーリーグの新記録となる九年連続200安打を達成したイチロー選手。野球界に新たな地平を開き続ける男は、いったいどこまで突き進むのだろう。
二〇〇一年、米メジャーリーグのマリナーズに入団して以来、驚異的なペースで安打を積み重ねてきたイチロー外野手。〇四年にはシーズン最多記録を更新する262安打を放ち、今季は日米通算で日本プロ野球記録の3085安打を抜いた。この六日にもメジャー通算2000安打を達成したばかりだが、その中でも史上初の九年連続200安打はひときわ価値あるものと言える。
昨季、イチローが並んだ八年連続の記録は百八年前のもの。各国から人材が集まり、さまざまな面でレベルが上がった現在、これほどコンスタントに打ち続けるのは至難の業だ。イチローはメジャー一年目から一度も途切れることなくシーズン200安打をマークしてきた。これはまさしく大記録と言わねばならない。
イチローの偉大さは、世界最高峰の実力、層の厚さを誇るメジャーリーグにひとつの革命をもたらしたところだろう。
主としてホームランに象徴されるパワーに注目が集まっていたメジャー。そこにイチローは正反対の打撃術を持ち込んだ。抜群のバットコントロールと、左打者の有利さを存分に生かしたスピードでヒットを量産し、チャンスを生み出し続けるというプレースタイルである。詰まった内野ゴロをスリリングな見せ場に変えてしまうのは、まさにイチロー・マジックと言っていい。彼はメジャーに異なる価値観をもたらしたのだ。
当初はこうしたスタイルに首をかしげる関係者やファンもいたろうが、その高度な技はしだいに米国の心をつかんだ。メジャーリーグはイチローによって違う魅力、面白さに気づかされたと言えるかもしれない。
いま、イチローには人種や国籍を超えた存在感がある。日米双方のファンが、一人の傑出した選手のプレーになんのこだわりもなく喝采(かっさい)しているのだ。ボーダーレスの時代、そこには大いに学ぶべきものがあるに違いない。
三十五歳になったが、精緻(せいち)な技に変化はない。これからも打ち続けて不滅の安打記録を樹立してもらいたいものだ。それは天才打者の伝説とともに、多様さの魅力、多様な価値観の意義をも長く語り継ぐことになるだろう。
この記事を印刷する