ラーメンの食べ歩きが好きな友人が、昨今の味の潮流を嘆いていた。どの店も塩分や油や調味料が強くなりすぎて、本来のスープのうまみが感じられなくなった。舌先の印象を競うあまり、濃い味に向かって一直線に走っているようだ。
▼人は誰でも違う味、新しい味を求める。しょうゆ、みそ、塩という型にはまったメニューでは、ほかの店と違いは出せない。まず考えるのが味の強さだろう。「ガツン」「ドカン」といった宣伝文句とともに目新しい味が次々と登場する。「食べた」という、その場の達成感は高まるが、人気が続くとは限らない。
▼9年連続200本安打を達成したイチロー選手は「型」の人だ。同じ道順で運転し、同じ練習をこなし、同じカレーを食べる。時には気分を変えたい日もあるだろう。だが、常に自分がベストの状態であると自覚するには完ぺきな準備が必要になる。神経質なまでに型を守ることで、未到の領域を切り開いてきた。
▼小学6年の作文で「ぼくの夢は一流のプロ野球選手になることです」と書いた。しかも「必ずなれる」と断言している。理由は、友達と遊ぶ時間がないほど練習をしているから。過程の先に結果を見ていたのだろう。ドカンと飛ぶホームランは見る者の気分を晴らす。積み上がる安打は、頑張る勇気を人に与える。