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その一打以上に、当人の感想が待ち遠しかった。「解放されましたね。人の記録との戦いにピリオドを打てた」。重圧をしのばせるコメントに、少しほっとした▼雨空のテキサスで、イチロー選手が9年連続200安打の大リーグ記録を残した。8年連続で並んでいたのは明治時代の選手である。三つの世紀にまたがるベースボールの歴史を、細身の日本人が何度も塗り替え、彼ならではの語録が「正史」として刻まれていく▼古いファンは「ベーブ・ルース以前」を思い起こすという。腕力よりバットを操る技術、スピード、そして頭を競う野球だ。ボテボテの内野ゴロがクロスプレーになる。歴史的な安打は、3バウンド目をすくい上げた遊撃手が送球をあきらめた▼打率より安打数にこだわる。3割を守ろうとすればつらい打席も、ヒットを1本増やしたいと思えば楽しめると。「楽しみ」を重ねての200本ながら、毎年となると大きなケガや不調は許されない。例えれば、編み物をしながらの綱渡り。そんな苦行を思う▼「僕は天才ではありません。なぜなら自分がどうしてヒットを打てるか説明できるからです」「驚かれているならまだまだ。驚かれないようになりたい」。刻まれた言葉の数々は近寄りがたくもある▼50歳で惜しまれながら辞めるのが夢、と聞いた。足と目が許す限り、このまま前だけ見て進むのだろう。なにしろ「現役のうちは過去を懐かしんではいけません」という至言の主だ。「よし、私も」とは思わない。あやかる気がなえるほどの高みである。