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社説

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郵政見直し―拙速を避け、代案をまず

 郵政民営化の前途が見通しにくくなった。民主、社民、国民新の3党が連立合意に「郵政事業の抜本見直し」を盛り込み、鳩山新政権の具体策が問われようとしている。

 連立合意は、日本郵政グループのうち、持ち株会社「日本郵政」と子会社「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命保険」の株式売却を凍結▼サービスと経営実態を精査して4分社化を見直す▼郵便局サービスを全国あまねく公平に、利用者本位の簡便な方法で利用できる仕組みに再構築する▼郵便、貯金、保険の一体的なサービスを可能にする、としている。

 今回の総選挙は、郵政民営化に象徴された小泉改革への審判という側面もあった。いまの民営化の枠組みが4年前の「郵政選挙」の産物である以上、新政権が必要な見直しを進めることは民意に応える意味でも重要だ。

 民営化開始からまもなく2年たつ日本郵政グループも課題山積だ。自民党内も二分された「かんぽの宿」をめぐる経営問題や、福祉団体の郵便料金優遇詐欺事件などの不祥事が噴き出す一方、宅配便事業の統合は難航し、住宅ローンも伸び悩む。

 20万人以上が働く日本郵政グループが十分な収益力をつけるまでは、株式上場を急ぐべきではない。その意味で、3党が掲げる株式売却の凍結案には一定の合理性がある。

 しかし、単純に4分社化の見直しや、郵便、銀行、保険の一体的サービスをめざすとしている点には、さまざまな疑問がある。3党合意の内容はあまりにも漠然としている。新政権は、めざす郵政民営化の見直しの具体像を、早く示すことが必要だ。

 その際の基本は、経営の効率化を図り、他の民間企業との適正な競争を確保するためにも、国営時代のような4業種の「どんぶり勘定」に戻してはならない、ということだ。

 4社制を続けるか、別のかたちを考えるのか。形式についてはいろんなアイデアがあっていい。だが、分けるべきは分けて透明性を確保し、収益性をチェックしやすい経営にするという原則をゆるがせにはできない。

 そのうえで、利用者が不便になったと感じているところには必要な改善の手を打っていけばいいのではないか。

 あす首相になる鳩山民主党代表は、日本郵政の西川善文社長を更迭する意向を示している。だが、問題はそう簡単ではない。連立政権はまず日本郵政見直しの具体像を示した上で、それに照らして西川氏ではなぜだめなのか、多くの国民が納得できる根拠を示さなくてはなるまい。

 経営も人事も、郵便事業や貯金、簡保などの利用者の利益を最優先すべきで、拙速な見直しが将来に禍根を残すようなことは避けるべきである。

9年200安打―孤高の打者が歴史を刻む

 記録達成の一打は、彼らしい内野安打だった。シアトル・マリナーズのイチロー選手がまた前人未到の地に立った。大リーグ初の9年連続200安打。とてつもない快挙をたたえたい。

 ウィリー・キーラーが1901年に記録した8年連続を抜いた。108年ぶりの歴史の塗り替えである。

 そもそも年間200安打の達成さえ大変なことだ。通算で最多はピート・ローズの10回。ただ4256安打の記録を残すこの希代の打者にして、200安打の連続は3年が限界だった。

 今季、出血性胃潰瘍(いかいよう)で開幕から8試合を欠場した影響は小さくなかった。残る154試合で昨年並みの1試合平均1.314本を打ったとすると、ぎりぎりの202安打にしかならない。

 だが戦列に戻ると、自己新記録の27試合連続を含め安打を量産した。先月下旬からも8試合を休んだが、先週には大リーグ通算2千安打も達成した。

 「チェーシング・ヒストリー」。大リーグの公式ホームページは今回の記録挑戦を、こう表現した。イチローは「メジャーの歴史を追い、光を当てる男」というわけだ。

 1年目の01年、242安打を放ち、ジョー・ジャクソンが作った新人最多安打記録を90年ぶりに塗り替えた。04年には262安打し、1920年にジョージ・シスラーが残した年間最多257安打を84年ぶりに更新した。そして今回の、世紀を超えた偉業だ。

 細い体でこつこつ安打を重ねる姿は最初、「蚊のようだ」と揶揄(やゆ)された。「走りながら打つ」と言われる打撃も批判にさらされたが、自らのスタイルを貫き通した。孤高の打者である。

 俊足で常に敵の内野をかき乱す。正確無比な守備と強肩。本塁打に象徴されるパワー全盛の大リーグにあって、野球本来の「スピード」の魅力を再認識させた功績は大きい。

 近年、大リーグは筋肉増強系の薬物に手を染める選手が相次いだ。そんな中、不断の鍛錬と節制で肉体を維持し続けるイチローのプロ意識は、米国でも敬意の的だ。9年連続で球宴に選ばれていることはその証しである。

 キーラーの現役時代、大リーグは白人の社会だった。第2次大戦後、黒人も次第に増えたが、ベーブ・ルースの本塁打記録を黒人のハンク・アーロンが74年に超える直前には、白人至上主義者からの嫌がらせや脅迫もあった。

 時は流れ、中南米、アジアとメジャーを彩る選手は世界に広がる。多様化を象徴する一人がイチローである。

 次に見据えるのは27人しか達成していない通算3千安打だろう。ジョー・ディマジオが41年に残した56試合連続安打の更新を望む声もある。

 歴史を追ってきたイチローは、すでに自らが歴史となりつつある。新たに刻む道を、これからも見守りたい。

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