HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 13 Sep 2009 22:18:21 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える リーマン後の世界経済:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える リーマン後の世界経済

2009年9月13日

 米証券大手リーマン・ブラザーズが破綻(はたん)して一年。暴風雨とともに、米国を中心にマネーが世界を回る成長モデルも終わったのでしょうか。

 株価がまずまずの水準に戻ったせいもあって「景気は最悪期を脱して底を打った」という見方が広がっています。危機の発信源である米国でも、自動車や住宅販売が少し持ち直しています。

 でも、このまま順調な回復を望むのは楽観的にすぎる。米国でも日本でも、政府が巨額の財政出動で補助金や支援策を繰り出して「需要を先食いしているだけ」という見方が一般的です。

◆壊れた高利回りの手品

 しばらくは不安定な状況が続きそうですが、ここでは中長期の世界経済を考えてみたい。それは「日本が輸出で稼ぎ、マネーを米国に投資して成長していく」という一九八〇年代以来のモデルが続くかどうか、という問題です。

 米国が巨額の経常赤字を出しながらも、金詰まりにならずやってこられたのは、日本はじめ世界中から赤字に見合うマネーをかき集められたからです。世界はなぜ赤字の米国に投資したのか。

 よく「米国が収奪した」なんて言い方がありますが、それは間違い。世界の人々自身が「米国への投資がもっとも安定的で、もうかる」と考えたからです。米国は金融技術を駆使して高利回り商品を開発し、売りさばく一方、自分も高成長国に再投資して高収益を実現してきました。

 ところが、高利回り商品という手品は住宅バブルの破綻でリーマン・ショックとともに泡と消えてしまいました。これは当分、再現しないでしょう。世界の金融機関は全部で約四兆ドル(三百七十兆円)といわれる巨額不良債権処理に手いっぱいで、とても新商品開発どころではありません。

◆資本が引っ越す時代に

 でも、新興国への投資は続いています。BRICsと呼ばれる中国やインドなど新興国は高成長を続け、基本的に高成長が高い投資利回りに反映するからです。

 すると、日本が輸出の稼ぎを米国に投資し、米国は途上国や新興国に再投資して日本に配当する。そんなマネー循環が続くのでしょうか。三菱UFJ証券のチーフエコノミスト、水野和夫さんは「そういう循環も終わりを告げる」と予言しています。

 「私は米国から『資本が引っ越す』と思う。これまではウォールストリートが途上国に投資して、稼ぎを米国に移転した。ところが、今後は資本自体が途上国に移って、稼ぎも途上国で再投資するようになるのではないか」

 国民はマネー(資本)のように簡単に引っ越せませんから、米国民は当然貧しくなり、途上国や新興国の人々が豊かになる。「それがいま目にしている現象です」。こうした富の移転は、かつて十六世紀にもイタリアのジェノバからオランダのアムステルダムへの「引っ越し」という形で起きた、と水野さんは指摘します。

 そもそも「日本が輸出で稼ぐというモデル自体が消滅する」という論者もいます。旧大蔵省で財務官を務め、いまも国際金融情報センター理事長としてマネーの動きを観察している大場智満さんは「みんな、まだ気が付いていないけど」と前置きして語りました。

 「昨年八月に日本の貿易収支は赤字になった。その後、少し持ち直したが、やがて輸出と輸入は同じになる。その後は経常収支も赤字に向かう。人口減で貯蓄が減るからです。そのとき日本はどうやって食料を輸入するのか。それに原油も。外貨が稼げなくなれば、日本は食料自給率を上げるとかして、自前で食べていけるようにしなくてはならない」

 経常収支が赤字になれば、輸入代金を支払うためには外貨が流入し続けねばなりません。これまでの米国のように、世界中が「日本は魅力的だ」と考え投資してくれればいいのですが、そうでなければ、基本的に輸出で稼ぐ範囲内でしか輸入できなくなります。

 かつて六〇年代がそうでした。輸出で稼ぐ外貨に限りがあり、輸入を制限せざるをえない。そんな「国際収支の天井」が日本経済のハードルだった時代です。そのころを知る大場さんは「いまの日本も見通しはあまり明るくない」と将来に悲観的です。

 まずは輸出競争力を維持する。そして、世界の人々が「ぜひ日本に投資したい」と考えるように、国の魅力を高める。

◆鳩山政権の成長戦略は

 日本は技術革新で石油危機をはじめ多くの難関を切り抜けてきた実績もあります。鳩山由紀夫政権は、どんな成長戦略を打ち出すのか。そして民間企業は。リーマン・ショックで陰りが見えた成長モデルの壁を乗り越えていく知恵の力に期待します。

 

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