国産の新大型ロケット「H2B」の1号機が、国際宇宙ステーションに物資を届ける初の無人輸送機(HTV)を積んで打ち上げられた。既存の主力ロケットH2Aよりも推進力を1.4倍に増したH2Bは、複数の実用衛星を同時に打ち上げる能力をもち、国産ロケットの課題であるコスト低減への期待は大きい。
日本はこれでH2Aと併せ能力の違う2種類の大型ロケットを手中にした。商業・科学衛星や宇宙ステーションへの物資補給で多様化する宇宙への輸送需要に応じ、大型ロケットを使い分けられる体制が整う。
この利点を生かし、欧米に水をあけられた打ち上げビジネスの一角に食い込めるか。日本の宇宙産業の競争力確保へ、これからが正念場だ。
宇宙航空研究開発機構と三菱重工業が共同開発したH2Bは、過去14回の成功実績があるH2Aの主エンジンを2基束ね、静止衛星なら8トンまで積める。エンジン2基を最適に噴射する技術など難関も克服し、技術水準の高さを世界に示した。
H2Bは宇宙ステーションへの物資補給で2015年までにあと6回の発射が予定される。ロケット事業は07年に三菱重工に移管されたが、打ち上げ費用が1回100億円超と欧米より2〜3割高く、国の負担も依然大きい。H2Bを着実に成功させれば、主エンジンが共通するH2Aも量産によりコストを減らせ、民間移管の効果が生きるはずだ。
とはいえ、宇宙ビジネスで米欧に肩を並べるまでの道のりは険しく、景気後退の影響で大型衛星の受注環境も悪化している。鹿児島県種子島の射場周辺の漁業に影響が出ないよう発射期間の制約もあり、ハンディを乗り越える工夫が必要だ。
政府が6月に定めた宇宙開発利用の中期戦略「宇宙基本計画」は13年度までに国の衛星など34基の打ち上げを盛り込んだ。大型ロケットは情報収集衛星の搭載など国の安全保障を担うが、いつまでも官需頼りでは宇宙産業の成長はおぼつかない。
日本の大型ロケット開発はH2Bの成功でほぼ一区切りつく。その果実を、海外の商業衛星打ち上げなど民需開拓にどう活用するか。官民が協力して日本の技術を海外に売り込むなど、知恵を絞る必要がある。