米中枢同時テロからあすで八年になる。オバマ政権最大の懸念は、テロ組織への核兵器拡散も絡むアフガン戦争の収束だが、前政権の負の遺産を新たな「オバマの戦争」にしてはならない。
ニューヨークの世界貿易センタービルに旅客機二機が突入、日本人二十四人を含む約三千人が瞬時に犠牲となったイスラム原理主義組織アルカイダによる米中枢同時テロ。その戦慄(せんりつ)は今も消えていない。グラウンド・ゼロの現場では再開発工事が進むが、遺族、被害者が負わされたままの物心に及ぶ傷はいかばかりだろうか。
「ブッシュの戦争」を象徴するのがイラク戦争だとすれば、アフガン戦争はオバマ政権にとってそこからの出口戦略と新たなテロ対策を示す試金石だ。
オバマ大統領は選挙中から「米国にとって真の脅威はアフガンにある」とし、軍事力だけでの問題解決を否定、民生部門を重視した国家建設政策を掲げてきた。
就任以来一貫して訴えている「イスラムとの対話」はイスラム穏健派を視野においた戦略的外交だ。トルコ、エジプトでの演説は前政権との決別を鮮明にし、道徳的優位を狙うものだ。
その一方、北大西洋条約機構(NATO)部隊を指揮する国際治安支援部隊(ISAF)トップに特殊作戦専門のマクリスタル司令官を抜擢(ばってき)、米軍も増派した。「テロは打ち負かす」との姿勢は変わっていない。
アフガン社会安定の道はなお多難だ。超大国との聖戦を掲げる過激派タリバンは勢力を増強、各地の戦闘は激化し、犠牲者は増えている。今月初旬、クンドゥズ地区でのNATO軍機空爆で、民間人多数が死亡する事件も起きた。
オバマ大統領は先月行った退役軍人会の演説で、アフガン戦争は「必要不可欠な戦争だ」と述べた。核保有国パキスタンに強い影響力を持つタリバン勢力の拡大に対する危機感を示すものだ。
新政権下で変化の兆しもある。集計が続けられている大統領選挙の成否は今後の最大の鍵だ。クンドゥズでは、司令官が即座に現場に行き、謝罪声明も発表、一定の地元の理解を得たという。イスラムとの対話も穏健派勢力内で評価を広げている。
出口戦略の鍵は、過激派テロ組織の周縁化と自主的な国家再建にある。戦争の「ベトナム化」を避けるためにも、国際社会の協力は欠かせない。
この記事を印刷する