クロマダラソテツシジミ、とは舌をかみそうな名前だが、東南アジア原産の熱帯性のチョウのことだ。羽を広げても3センチほど、幼虫はソテツの若芽を食い荒らす習性があるという。世界中に分布するシジミチョウのなかでも変わり種だ。
▼南国の風土にこそふさわしいこの小さな生き物が日本列島で相次いで見つかっている。九州や四国はもちろん、大阪や兵庫でも公園や庭先にまでやって来たという報告が少なくない。今年の夏にはとうとう東京都心でも繁殖が確認されたとNHKは伝えていた。地球温暖化との関係を疑わせる不気味な北上である。
▼首相になる民主党の鳩山由紀夫代表が、温暖化ガスの排出を2020年までに1990年比で25%減らすと表明した。その意気やよし、と拍手を送りたいが生やさしい話ではない。よほどしっかりした道筋を示して産業界を説得し、暮らしにも配慮しないと絵に描いた餅(もち)。中国やインドを本気にさせる努力もいる。
▼由紀夫氏は子どものころ、弟の邦夫氏とともにチョウの採集に励んだという。やがて宅地化が進んで野山のチョウは姿を消し、それが環境問題に目を向けるきっかけになったそうだ。さて今度はクロマダラソテツシジミの異変でもうかがえる人類の危機にどう挑むか。鳩山家の友愛精神だけで勝てる戦いではない。