麻生太郎首相が首相官邸を離れる日が、刻一刻と近づいている。一日の動静を伝える新聞の欄を見ると、先週末は静かに過ごせたようだ。民主党の鳩山由紀夫代表の欄からは忙しさが伝わってくる。新政権の準備に追われる毎日である。
▼権力の座から去る人の思いは複雑だ。トルーマン米大統領の退任直後の言葉がある。「2時間前には私が一言発言すれば、世界中のあらゆる首都でそれは引用された。今は私が2時間しゃべっても、誰もそれに見向きもしない」(M・ケッツ・ド・ブリース著、金井寿宏訳「会社の中の権力者、道化師、詐欺師」)
▼しかし麻生さんは衆議院議員なので政治活動をやめるわけではない。元首相の森喜朗さんや、首相の座を放り出した安倍晋三さんと福田康夫さんもまだ頑張るようだ。企業では、会長、社長を退いてからも相談役や顧問などの肩書をつけて会社に残る経営者が多い。肩書なしの人生は考えられないのかもしれない。
▼経営者は選挙がないので、会社によっては終身も可能だ。経済同友会の第16回企業白書は、対外活動で肩書が要る場合も「権力の二重構造や長期居座りを極力排除する仕組みが望まれる」と訴えている。最近、相談役を廃止する企業もある。重責を果たした後、政治家や経営者がどう過ごすかに人間性が表れる。