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小脇に抱えて絵になる物のひとつに、フランスパンがある。週末のパリ、お使いの子が細長いバゲットを抱えて朝の裏道を急ぐ。焼きたての香りに負け、先っぽに小さな歯形がついていることもある▼さて、これはどう抱えたのだろう。不二家の店から「ペコちゃん人形」を盗んだ疑いで、暴力団員(42)が和歌山県警に捕まった。ペコちゃんを抱えて車に走る中年男は、絵にならないばかりかうら悲しい▼関西では今年初め、不二家の店先から人形が消える事件が相次いだ。しばらくして大阪のリサイクル店で10体が見つかり、警察が関連を調べていたという。人形は高さ1メートル、目方は10キロで、ネット上の競売では20万円の値がつくそうだ▼東京・銀座で開かれていた「ペコちゃんミュージアム」をのぞいた。約60年前に生まれ、たちまち看板娘になった永遠の6歳。ご婦人がひしめく会場には各時代の人形がうちそろい、かわいい舌を出している。なるほど、手元に一つあっても悪くない▼町田忍さんの『路上ポップ・ドールのひみつ』(扶桑社)に、人形を家族のようにかわいがる不二家店主の話がある。色落ちに気づけば塗り足し、寒い日は毛糸のポンチョをかけてやるという。和歌山の件、店や正しいマニアにすれば、営利誘拐にも等しい所業であろう▼頭をなで、瞳をのぞくうちに情が移り、人形は市場価値を超えた宝物になる。お金が絡めば夢の居心地は悪かろうに、盗品と感づきながら頭をなでる御仁がいる。心の折り合いをどうつけているのやら、ああ気が知れない。