HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Sun, 06 Sep 2009 00:18:26 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 拝啓 『鳩山総理』殿:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 拝啓 『鳩山総理』殿

2009年9月6日

 新首相就任間近の鳩山由紀夫さん。念願の政権交代で、喜びと緊張の日々と拝察します。国民の期待に応えてオバマ米大統領に負けない「変革」を。

 衆院選公示の前日、日本記者クラブで行われた六党首討論会の開始直前、おやっと思った場面がありました。各党首に揮毫(きごう)してもらうのが恒例で、鳩山さんは当然「友愛」と書くだろうと思ったら、「命」と書かれましたね。あなたは「初めて書いた」と小声で注釈を加えていましたが、「命」こそ「政権交代」と同様に今回の審判に当たってのキーワードだったのですね。

 「自公失政」の裏返し

 長崎2区で久間章生元防衛相(自民)を破った民主新人、福田衣里子さんはC型肝炎訴訟の原告だったこともあってか「命を大切にする政治」を訴え続けました。また東北遊説中に鳩山代表は、派遣労働を切られて自殺してしまった息子のことを涙ながらに訴える母親の言葉に沈痛な表情で聞き入っていましたね。そういえば民主党との連立政権に応じる方向の社民党の福島瑞穂党首も沖縄遊説で「命(ぬち)どぅ宝」(命こそ宝)と叫んでいました。

 「市場原理優先」をうたい文句にした小泉純一郎首相以来の自公政権の政策が、さまざまな格差を拡大させた結果、戦後日本人の共通意識でもあった「総中流」という、ある種の安心感は崩壊しました。非正規・派遣労働者、生活保護世帯など社会的弱者を中心に、自公政治への怒りが爆発して民主三百八議席を誕生させたのです。

 鳩山さん、民主党の大躍進は「自公失政」を鏡に映した姿であって、本当に国民から期待される政権政党になれるかどうかは、すべてこれからです。

 未来へ国民的合意を

 そこで要望と注文です。日本という国は、あなたの祖父・鳩山一郎氏が初代自民党総裁を務めた一九五五年体制のころとは構造的にも国際環境面でも激変していることを受けて日本のあるべき姿を具体的に語ってください。この国をどんな方向に導くべきか、国民的合意を形成するために全力を傾注してください。

 「ニューズウィーク」(日本版九月二日号)の「沈みゆく日本」特集は、こう指摘しています。

 「日本が世界で勢いを盛り返すには、経済を新たな成長軌道に乗せる必要がある。なのに(自民、民主の)党幹部たちはこの点についてあまり語ろうとしない。中堅国として生きていければ万々歳と思っているかのようだ」

 近々に国内総生産(GDP)で世界第二位の地位を中国に明け渡す日本ですが、いまさら中国やインドとGDP競争をしようと思っている政治家は稀有(けう)でしょう。

 日本が目指すべき方向は、先進国一の速度で進む高齢化率と止まらない少子化傾向の中で、いかに「活力ある国家」「高度技術国家」「環境モデル国家」「健全財政国家」「脱工業化社会」「老壮青世代が融合する共生社会」を創(つく)りあげるかです。

 民主党の政権公約の柱である「子ども手当」創設にバラマキとの批判がありますが、人口減を食い止めるための一施策としては間違っていません。一九六一年に国民皆年金がスタートした背景には、大家族から核家族化への変化に伴って両親の老後は「社会的親孝行」ともいわれる年金で面倒をみる仕組みに切り替える必要があったのです。いま高齢化と同時に少子化が進み、このままでは今世紀半ばに日本人は一億人を切る事態に直面します。「社会的子育て」は不可欠です。こうした社会構造の激変と対応策を語り、国民を説得することこそ政治の役割ではありませんか。

 説明責任という点では注文を一つ。あなたの秘書による政治献金虚偽報告に関してあらためて自らの口で率直に話してください。政権交代で帳消しとはいきますまい。祖父の鳩山元首相は吉田茂元首相とは対照的に大衆性に富み、新聞記者が自然に集まったといいます。五五年の衆院選で鳩山氏率いる当時の民主党が六十一議席増やしたのも親しみやすさが鳩山ブームをもたらしたからでした。戦前、田中義一内閣の書記官長(現在の官房長官)当時、発表役として閣議への出席が許されるようになったら、秘密事項が翌日の新聞にどんどん出る。小川平吉鉄道相が「犯人は鳩山」と首相に耳打ちし、閣議から締め出したら漏えいがぴたりと止まったという秘話も残っています。

 説明責任を果たして

 お祖父(じい)さんの開けっぴろげな態度をそのまま見習え、とは申しません。だが公人としての説明責任をきちんと果たすのが、政治の最高指導者としてのマナーと思いますが、いかがですか。

 

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