十八世紀フランスの批評家シャンフォールに「裁く回数が増えるほど、愛情が少なくなる」という警句がある。涙をぬぐいながら取材に応じる裁判員の姿からは、一度限りだからこそ職務を果たせた誠実さが伝わった▼性犯罪を初めて審理した裁判員裁判で青森地裁は求刑通り懲役十五年を言い渡した。求刑の「八掛け」という常識を覆したのは、被害者の痛みを受け止めた「市民感覚」の反映だろう▼傍聴席に映らないモニター越しに被害者の女性は、別室からそれぞれ語った。「あの時、殺された方がよかったとも思いました」「迷いましたが、一言伝えることで刑が重くなるならと思って来ました」▼どこかで会う可能性もあるのだから、裁判員にも顔は見せたくなかったはずだ。それでも証言したのは泣き寝入りしたくないという気持ちからだ。思いは確実に伝わった▼課題もまた浮き彫りになった。プライバシー保護への配慮はあったものの、見て、聞いて、分かる裁判員裁判の「口頭主義」の原則から、犯行の詳しい手口が傍聴人にも明らかにされた。被害者の声もそのまま流された▼裁判員裁判の対象から性犯罪を外してほしいという女性団体の要望もある。裁判が気になって被害を訴えられなくなれば本末転倒だ。市民の司法参加の意義以上に、真っ先に優先されるのは被害者をこれ以上傷つけないことだ。