きょうは9月最初の日曜日。まだ暑いけれどだからこそ、気分だけでも秋を味わいたい。ごろりと横になり本を開いてみよう。小説の世界に没頭すると、硬くなった頭がほぐれる。村上春樹もいいけれど、森鴎外や夏目漱石に挑みたい。
▼鴎外、漱石が代表する近代文学は、若い世代にとって中世文学のように思えるらしい。でも、わからない言葉があっても難なく読める。文庫によっては丁寧な注がついているからだ。中身も古くない。例えば鴎外の「高瀬舟」。弟を安楽死させる兄の話だ。仮に裁判員に選ばれたら考え込んでしまうテーマである。
▼漱石が未完の絶筆「明暗」で描く明治末期の東京・山の手の風俗は、昭和30年代のそれを連想させる。あの時代を知る世代だけでなく、知らない世代も、なぜか懐かしく感じる。時は流れても、人の内面は変わらない。恋愛、罪、エゴイズム……。明治の文豪は翻訳調の新しい文体を使って人間そのものに挑んだ。
▼明治の日本が経験した「近代化」は、中国では「現代化」という。中国内陸部には明治の日本があり、上海には超現代的な光景がある。近代と現代とは混在し、線引きは難しい。だから近代文学は現代文学でもある。2009年の政権交代も、30年もたてば、現代史よりも、近代史上の出来事と記されるのだろう。