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天声人語

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2009年9月5日(土)付

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 夜道を歩いていたら、植え込みで「チン、チン」と鳴いている。今年はじめて聞くカネタタキだ。コオロギの仲間で、鉦(かね)をたたくように鳴く。立ち止まって耳をすますと、別の葉陰からもチン、チン……。秋が耳の奥へ広がっていく▼12カ月を音のイメージで表した「音の歳時記」という詩が、那珂太郎さんにある。一月は「しいん」。厳冬に天地は静まる。二月は「ぴしり」。春が兆して氷が割れる。三月の「たふたふ」は雪どけの川。詩人の感性は、さすがにみずみずしい▼四月は「ひらひら」。野を越えて蝶(ちょう)が飛ぶ。五月は「さわさわ」と風がわたる。六月「しとしと」。七月の「ぎよぎよ」は蛙(かえる)の合唱だ。そして八月の「かなかなかな」から、九月は「りりりりり」。音の呼びさます季節感も趣は深い▼その詩さながらに、東京ではここ数日で、樹上の吹奏楽から草むらの弦楽に楽団が変わった。カネタタキはささやかな打楽器か。虫の声の移ろいは、太陽の季節から「もののあわれ」の季節への、舞台の巡りを人に教える▼昔は、虫の音にも「聞きなし」があった。リーリーと鳴くコオロギの声を「糸刺せ、針刺せ、つづれ刺せ」と聞いたそうだ。冬着の繕いを急がせる声だという。夜が静かだったころの炉辺の想像である▼那珂さんの詩は、十月「かさこそ」、十一月は「さくさく」と続く。落ち葉と、霜の朝である。十二月は「しんしん」。雪が降って、時の逝く音だそうだ▼心をすませば聞こえるかもしれない。日々の喧噪(けんそう)から、ときには心身を解き放つのもいい。

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