防災の日前後に行われた訓練は、予想される地震を念頭に置いたものもあった。しかし近年は、想定外の自然災害が相次いで起きている。防災対策の間口を、思い込みで狭めてはいないか。
政府による今年の総合防災訓練は首都直下地震、静岡県は東海地震を想定し実施された。
首都直下地震は二〇〇四年夏、三十年以内の発生確率70%程度とし翌年二月、被害想定がまとめられた。海溝型の東海地震に至っては一九七六年から発生の危険が警告されている。
先月十一日、駿河湾を震源に起きた地震は、東海地震との関連に関心が集まったが、専門家の判定会は否定する結論を出した。「あす起きてもおかしくない」と言われつつ三十年以上経過したことになる。
東海地震と関連が深く、同じ海溝型で、同時発生も懸念される東南海・南海地震も、三十年以内の発生確率は50〜70%とされているのは周知の通りだ。
予想通りこれらの巨大地震が起きれば、人命、財産とも大きな損害を受けるのは想像に難くない。巨大地震を想定に入れて訓練したり、防災対策を強化すること自体はまことに結構である。
問題はこの二十年間、被害を伴う国内の地震の大部分が、予想もしない地域で起きたことである。活断層の活動による直下型の阪神・淡路大震災は、死者六千人以上の大災害だが、寝耳に水だった。昨年六月の岩手・宮城内陸地震も事前に警戒の声はなかった。
東海地震のような海溝型とは別に、日本列島の内陸部にはいたるところに活断層があり、極端にいえば、いつどこで地震が起きても不思議はないといえる。
また、時、場所、規模を具体的に特定した地震の予知は、今の地震科学ではできない。東海地震のみは前兆を観測、警戒宣言を出すことも可能というが、前兆の把握を疑問視する専門家もいる。
国、自治体は今後の地震対策を進めるに当たり、特定地域に偏るのを見直すべきではないか。住宅などの耐震強化の支援は、全国どこでも推進したい。
過疎化した中山間地域でも、救援や復旧に必要な基幹道路を確保するため、日ごろから土砂災害対策は最小限必要だろう。
自然災害は地震だけではない。今年は犠牲者五千人を超えた伊勢湾台風五十年に当たる。台風や豪雨への着実な対策も忘れてはならないだろう。
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