HTTP/1.0 200 OK Age: 1 Accept-Ranges: bytes Date: Wed, 02 Sep 2009 20:21:25 GMT Content-Length: 10607 Content-Type: text/html Connection: keep-alive Proxy-Connection: keep-alive Server: Zeus/4.2 Last-Modified: Mon, 31 Aug 2009 15:16:28 GMT NIKKEI NET(日経ネット):社説・春秋−日本経済新聞の社説、1面コラムの春秋

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社説 政治主導の改革で成長と社会の安定を(9/1)

 次期政権は内政面で多くの課題を抱える。リーマン・ショックの傷が癒えない経済の立て直しのほか、持続的な成長への基礎固め、社会保障の信頼性の向上、そして雇用不安の解消などを通じた社会の安定だ。

 民主党は政治主導、首相官邸主導で様々な課題に挑む考えだ。官僚や族議員が強い力を持っていた統治の形を変えることで、懸案の解決に道を開くよう期待したい。特に持続的な経済成長と社会の安定に必要なのは将来をにらんだ構造改革である。政権を担う以上、責任を持って政治主導による改革を進めてほしい。

官僚を上手に利用して

 民主党はマニフェスト(政権公約)で「官僚丸投げの政治」や「政府と与党を使い分ける二元政治」を改める方針を掲げた。そのために国会議員約100人を政府に配置することや、政策の大きな方向を決める国家戦略局の設置などをうたう。

 農業や地域産業振興など官僚主導のために政策を誤った事例は多い。また官僚と族議員が特定の利害関係者と結びついた結果、問題の多い制度や慣行が残り、経済成長や教育、社会保障の改善を阻んでいる。政治主導、官邸主導に特に大きな意味があるとすれば、官僚や族議員が取り仕切ってきた農業、公共事業、医療、教育、保育などの分野で、新しい政策を実行できることであろう。

 当然、官僚や族議員は反発するだろう。次期政権の指導部がどれだけ熱意を保てるかは成果を大きく左右する。新しい組織など「形」を整えるだけでなく「魂」を入れて、官僚の力も上手に利用しながら、政治主導の実を上げてほしい。

 その政治主導への転換を前提に、民主党は幅広い生活支援策を提唱する。月2万6000円の子ども手当や高速道路の原則無料化、ガソリン税の暫定税率の廃止などだ。

 多額の子ども手当は暮らしを楽にするだけでなく子供を産みやすくして、長い目でみて少子化対策、経済活性化策としての意味もある。

 ただし、民主党のこれらの方針に、いくつか注文がある。

 第一に、5.3兆円にのぼる子ども手当を含め、各施策を賄う17兆円弱(2013年時点)の財源をまっとうな方法で確保すること。公共事業や公務員給与、不要不急の補助金の削減などはうなずける。だが租税特別措置の1兆円強圧縮などとなると経済への影響も心配である。

 何より、財源を確保できないとき国債発行に逃げ込むのは避けるべきだ。主要国で最悪の公的債務の状況をさらに悪化させれば、金利の上昇を招き経済に逆効果となる。

 第二に、長い目でみて弊害のほうが大きい政策は中止を含め見直すべきである。例えば高速道路の無料化は交通渋滞を悪化させ、トラックによる物資の輸送を非効率にしかねない。過去の高速道建設で負った借金37兆円の元利支払いを後の世代に税金の形で負わせることにもなる。

 派遣労働の厳しい規制は一見、非正規労働者を守る政策に見える。しかし企業が生産拠点を海外に移しやすくなっている今日、派遣の規制によって正規雇用が増えるかは疑わしい。非正規労働者はかえって働く場所を減らしかねない。

 第三に、当面の生活支援や景気下支えと並行して人口減少下での経済成長戦略を立て、長期の視点からの政策に力を注いでほしい。

 民主党のマニフェストにはないが医療や農業、教育、保育などの分野での規制緩和は企業の潜在力を引き出すのに大きな役割を果たす。また民主党は温暖化ガスの削減で国際交渉を主導する考えを掲げる。中国やインドを含め排出削減の枠組みがきちんと決まれば、技術力が高い日本は優位に立つはずであり、その公約の実行に大いに期待したい。

後世代の負託に応えよ

 日米間の自由貿易協定(FTA)をめぐる鳩山由紀夫民主党代表の発言は揺れた。企業が世界市場で競争する時代には日米間を含む貿易自由化は重要だ。生産性向上を伴う農業改革と併せFTAの輪を広げたい。

 国際競争力を維持するには、同党が掲げる中小企業の法人税軽減だけでなく、大企業の法人税負担の軽減も考慮すべきだ。地域経済の活性化には大胆な地方分権も欠かせない。

 高齢化できしむ医療や年金制度を持続可能なものに改めるのも課題だ。そのために消費税の増税は避けられない。鳩山代表は「4年間、消費税を増税しない」と述べたが、景気が明るくなる時は前言にとらわれず増税を検討すべきだ。改革や増税が遅れると後世代にツケが回る。

 25年には65歳以上の人1人を現役2人で支える。この急速な高齢化はまだ選挙権を持たない若い世代や、これから生まれる世代に必然的に大きな負担を課す。衆院の大勢力となった民主党はそうした後世代からも負託を受けていると考えるべきであり、それに応える義務があろう。

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