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天声人語

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2009年9月3日(木)付

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 作家の三島由紀夫が大蔵省の官僚だったころ、大臣の演説草稿を頼まれたことがあった。しかし書き上げると上司は満足しなかった。根本的に書き直されたと、自著の『文章讀本』で振り返っている▼直された文は三島も感心する「名文」だった。「すべてが感情や個性的なものから離れ、心の琴線に触れるような言葉は注意深く削除され」ていた。紋切り型の表現がちりばめられ、不特定多数に話すための、見事な出来栄えになっていたという▼小説家を感服させた「名文」は、お役所文章の一典型だろう。いんぎんで、ていねいで、中身がない。さらに近年は、カタカナ語の氾濫(はんらん)もあって、読みにくさに磨きがかかっている。あいまいに徹し、分かりやすいと沽券(こけん)にかかわる、と言わんばかりのものもある▼文は人なり。そこから読み取れる官僚の精神像を、作家の井上ひさしさんはざっとこう言う。「わざわざ難しく表現して国民を煙(けむ)に巻き、それによって自分たちを、堂々として、おごそかで、いかめしい存在に見せたがる」(『にほん語観察ノート』)▼お役所言語の隆盛には、作文棒読みの政治家が一役も二役も買ってきた。官僚支配はいまや目の敵(かたき)だが、それは官僚言語による政治の支配でもあっただろう。国会答弁もしかり。分かりやすい言葉、生きた言葉は、いつしか追いやられていった▼政治が遠いのはそれゆえでもあろう。民主党の「脱・官僚依存」は「脱・官僚言語」でもあってほしい。はじめに言葉ありき。そこにも日本を変える源流があるのではないか。

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