脱力感漂う自民党本部に台風11号の風と雨。経験のない惨敗に追い打ちをかける気象が前途の厳しさを物語るようだった。政権奪還の機会はおいそれとは来そうにない。野党暮らしに耐えられるか。
衆院選公示前勢力の三百が百十九議席に。総裁の麻生太郎首相は惨敗の責めを負って辞意を表明した。自民党はこれから敗戦処理に追われることになる。
野党に政権の座を明け渡し、下野するのは細川政権が誕生した一九九三年衆院選以来のことだ。当時はそれでも今回の倍近い議席を確保して第一党の地位は死守、社会党などとの連立で翌年には政権を取り戻した。
今や第一党は自民の二・六倍近い勢力へ膨張した民主党。十六年前の再現は絶望的な状況だ。加えて四年前の衆院選で圧勝した自民の政権がそうしたように、民主の政権が早いうちに衆院を解散することは想定しにくい。
つまり自民は今後四年間の野党暮らしを覚悟せねばならない。問題はそれに耐えられるかどうかである。議席の激減で政党助成金が減額される。財界からの献金も極端に細るに違いない。選挙に費やした借金返済もあろう。
再起を誓う落選組への手当てをどうするか。失職する多数の議員秘書らの処遇も無視できまい。
つらいのは金銭問題だけではない。九三年の下野当時ですら、官僚による「野党扱い」に議員たちから悲鳴や愚痴が漏れたものだ。
「党の再生」「解党的出直し」は言うにやすく行うに難い。長年の与党に慣れた体質には過酷な日々が待ち受ける。
辞める麻生氏の後継総裁選びは九月下旬になるようだ。党内には“自滅”に導いた有力者らが辛うじて勝ち残ったり、比例との重複立候補で救済されたりしたことに複雑な空気があるとも聞く。再スタートを誤れば、空中分解のリスクもささやかれている。
それでも老舗の自民には荒療治を求めたい。再生の希望がわくような総裁を選び出し、清新な指導部の下で人材を育ててもらいたい。民主主義の議会には強力な野党が欠かせないのだ。
小選挙区で全敗した公明党も、代表らの総替えと立て直しを迫られる。新体制が、間違っても「寄らば大樹」とならないよう、毅然(きぜん)とした再出発を期待する。
敗れたとはいえ自民には比例選で千九百万近い票が入った。公明も八百万を超す。出直しの土台はしっかり残っている。
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